「岩の小舟溜まり」。
聞け。言葉は老いたる者の叡知。
この一行は、不思議だ。突然「言葉」が登場する。「言葉は叡知」を「叡知は言葉」と読み直すこともできるだろう。そのとき「老いたる者の」という修飾語を必要とするかどうかは、わからない。いや、そうではなく、この一行では「老いたる者」が、間接的に、重要なのかもしれない。
間接的に重要、というのは奇妙な言い方になるが。
言いなおそう。
もし「老いたる者」のかわりに「若者の」ということばがこの一行にあったとしたら、その前後の表現はどうなるのだろうか。
「肉体は若者の叡知」とならないだろうか。「叡知は肉体」である。それは「肉体は叡知」にかわり、そして、その「叡知」は「無知(恐れを知らない)」かもしれない。そこには輝かしい「いのち」がある。「いのち」は「叡知」など必要としない。
そのとき、「聞け。」はどうかわるか。
「見ろ(見よ)」に変わるかもしれない。
この詩のなかに繰り返される「きみ(の)」ということばから、私は、「きみの若い肉体」を見ている「老いたる詩人」を反射的に思い浮かべる。「私」がだれか、この詩では書かれていないが。「聞け。」と言った人は、「きみ」よりも「老いている」。もし、「きみ」と同じ年代ならば(若いにせよ、老いているにせよ)、「聞け。」と呼びかけたあと、「老いたる者の」ということばは書かれないだろう。
「聞け。」という強い響きが、そういうことを想像させる。
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