「日記」を書くというのも、なかなか時間がかかる。書きたいことはたくさんあったのだが、時間がとれない。
和辻哲郎全集第七巻。「原始キリスト教の文化的意義」を読む。私はキリスト教徒ではない。和辻もキリスト教徒ではない。だから、キリスト教を、あるいは「聖書(新約、旧約)」を「宗教」としてではなく「作品(文学)」として読み進み、そこからことばを展開する。聖母マリアについて書いた部分がとても刺戟的だ。
聖母マリアを「想像の所産」と断定し、こう書いている。
本質の把握にとっては、与えられているものが知覚的経験的に与えられているか、あるいは想像力によって与えられているかは問わない。(147ページ)
聖母マリアが「歴史的人物」ではない、つまり「事実」ではないとしても、そこに「本質」があれば、それで問題ではない。人間にとって重要なのは「本質」であるということなのだが、そのときの「本質」は、どんな根拠に基づくか。
「経験」ではなく、「本質的直観」である、と和辻は言う。
人間が、母を経験する。母と子の愛を経験する。それは個別的な体験である。それが「普遍(完全なるもの)」にどうやって変化するのか。「直観」によってである。
こんなふうにも書いている。
我々は現実の世界において完全なるものを経験することはできない。すなわち現実の世界には完全なるものは存在しない。(略)個々の母を経験しながら「母一般」を直観し、それをさらに他の直観と結合しつつ、ついに「処女にして母」なるものにおいて完全なる愛と美を直観するに至るのは、内に働くイデーのしわざでなくてはならない。(148、149ページ)
「イデー」とは何か。
私は「こころ(精神)」が存在しないと考える人間である。「イデー」も「精神」のようなものではなか、と考えると、和辻のことばを頼りに自分のことばを動かしている私の文章は矛盾していることになるのか。
だが、私が頼りにしているのは、その「結論」ではない。
いま引用した文章で言えば「内に働くイデー」とよりも、私は「現実の世界には完全なるものは存在しない」ということばの方につよく刺戟を受けている。「完全なるものは存在しない」なら、「イデー」も存在しない。それは「現実の世界」ではない。
存在するのは「構想力」、あるいは「想像力」であり、しかもそれは「直観」なのである。論理的根拠を持たない。では、何を根拠とするのか。「肉体」である、と私は考えたいのだが、その「通路」というか「方便」は、まあ、見つからないなあ。
しかし、手がかりはあるかもしれない。
和辻は「内に働くイデー」と書いている。「イデーは働く」と読み直してみる。「イデー」は固定してない。「動く」だけでなく「働く」、つまり動詞であり、なおかつ何かに作用するときの動詞である。あらゆる「動詞」は肉体とともにある。「飛ぶ」という人間にはできないことさえ、「できない肉体」とともにある。もちろんこの「できない」を「できる」に変えるのが、たとえば飛行機であるが、そのために人間は「肉体」を動かし、素材に「働き」かけ、いままで存在しなかったものをつくる。
「こころ(精神)」ではなく、ただ「肉体」だけが「現実」として存在する。
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