詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

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「日刊ゲンダイ」の「論理」を読む

2016-12-16 01:01:41 | 自民党憲法改正草案を読む
「日刊ゲンダイ」の「論理」を読む
               自民党憲法改正草案を読む/番外53(情報の読み方)


 私は他人の書いた文章を読んでもあまり「同感」という気持ちにはならないのだが、2016年12月15日の「日刊ゲンダイデジタル」の「領土問題ゼロ回答へ安倍首相“プーチン恫喝”に大ショック」(http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/195877)にはかなりの部分で「同感」した。
 私が12月14日のブログ(プーチンインタビュー、プーチンインタビュー2)で書いた予測と似ているからである。ともに読売新聞・日本テレビ新聞のインタビューをもとに分析しているから、当然といえば当然だが。
 しかし、その「論理」の進め方まで似ているので、かなり驚いた。(1)領土問題はロシアには存在しない(2)ロシアは経済支援だけを狙っている(3)日本はアメリカから自立しているのか、という具合に進んでゆく。
 「論理」の進み具合(進め方)が似ていると、他人の文章を読んでいる気がしない。次に来る「論理」がわかるので、斜め読みできる。

(1)領土問題

 (日刊ゲンダイ)
 来日直前、読売新聞のインタビューに応じたプーチン大統領が、北方領土の引き渡しについて「ロシアに領土問題はない」と言い放ち、さらに安倍政権を恫喝までしているからだ。もはや、領土問題は「ゼロ回答」に終わり、経済支援だけ食い逃げされるのは確定的である。
 来日直前に発したプーチン発言は強烈だ。
 〈第2次大戦の結果は、しかるべき国際的な文書で確定している〉と、北方領土は国際的にロシア領として認められていると強調。

 「前文」は私は書かないが、「ニッカンゲンダイ」はジャーナリズムの基本にそって「前文(要約)」最初に書いている。そのあとでまず「領土問題」について書いている。。 私もまず「領土問題」から書き始めた。「ロシアに領土問題はない」という主張をインタビューから抜き出して、提示した。

 公表されている内容の、次の点がポイント。
 プーチンは「北方四島」について、「日ソ共同宣言」(1956年)を基礎とすると主張している。平和条約締結後に、歯舞と色丹を「引き渡す」。国後、択捉を加えて問題化することは「共同宣言の枠を超えている」と拒否している。
(略)
3面に「インタビューの詳報」が載っている。次の部分が印象的だ。

 --北方領土の問題はロシアから見ても、唯一残された国境線の問題だというふうに認識している。
 ロシアには領土問題は全くないと思っている。ロシアとの間に領土問題があると考えているのは日本だ。

 痛烈である。あたりまえだが、北方四島をロシアは実効支配している。日本の自衛隊が北方四島でロシア軍と戦っているわけでもない。「国境」は安定している。

 さすが「日刊ゲンダイ」はプロの記者。「要約」がうまい。私は「要約」よりも「細部」にこだわる方なので、どうしてもだらだら書いてしまう。

(2)経済協力/支援問題

 (日刊ゲンダイ)
しかも、日本が経済支援をしても譲歩しないつもりだ。安倍首相が提案した8項目の経済協力プランについて〈(平和条約締結の)条件ではない。必要な雰囲気づくりだ〉と、領土引き渡しには直接結びつかないと明言している。領土問題を「棚上げ」し、経済支援だけ頂戴しようという魂胆なのは明らかだ。

 この部分については、私はこう書いた。

 さらに「北方四島」での「共同経済活動」についての「問い」と「答え」もおもしろい。

 --(北方四島での共同経済活動は)ロシアの法の下でなのか、日本の法の下でなのか、第三の機関を作って、その法の下でなのか。大統領の考えは?
 日本人は非常に創造的で頭のいい国民だと思う。いまあなた方は、議論に値するアプローチのすばらしい例を示した。日本の主権下、島々で経済活動を展開する問題が提起された。しかし第一歩がそうだと第二歩は必要ないことになってしまう。

 「ロシアの法律の下で」に決まっていると主張している。これは当然のことなのだが、その直前の「日本人は非常に創造的で頭のいい国民だと思う。いまあなた方は、議論に値するアプローチのすばらしい例を示した。」が実におもしろい。私は笑いだしてしまった。私の言い方で言いなおすと、このプーチンの「ほめことば」は、「日本が秘密裏に考えていることを教えてくれてありがとう(そんなことは知っているけれどね)」と言っているのに等しい。「日本から見れば、それはすばらしいアプローチだけれど、そんなことをしたらロシアの存在意義がなくなる。するわけないだろう」と叱り飛ばしているのである。でも叱り飛ばすだけでは申し訳ないから「第一歩がそうだと第二歩は必要ないことになってしまう」と少し「夢」をちらつかせている。「第一歩」はロシアの方の下で、それがうまくいけば「第二歩」を考えてみることはできる、と。でも、これは「第一歩」の段階で日本からしぼれるものは何でもしぼる。しぼれるものがなくなったら「第二歩」として歯舞、色丹は「引き渡し」してもいいかも、と言っているにすぎない。どの段階でロシアが満足する? 保障は全然ない。「第一歩」しかロシアは考えていない。
 日本からどれだけ「経済協力」を引き出すか。プーチンの首脳会談の目的はそれだけである。

 私は文章を「要約」するのではなく、書かれていないことばを探して読むのだが、たどりついた結論は同じである。

(3)アメリカと日本の関係

(日刊ゲンダイ)
 その上、プーチンは安倍首相を恫喝までしている。ウクライナ問題をめぐって日本がG7と一緒に経済制裁していることに対して、〈日本はロシアへの制裁に加わった。制裁を受けたまま、どうやって経済関係を高いレベルに発展させるのか〉と制裁解除を要求し、〈日本が日米同盟で負う義務の枠内で日ロの合意をどのくらい実現できるのか、我々は見極めなければいけない〉と、日米関係の見直しまで迫っているのだ。

 これについては、私はこう書いた。

 日本からどれだけ「経済協力」を引き出すか。プーチンの首脳会談の目的はそれだけである。
 で、それが次の主張になる。2014年のウクライナへの軍事介入以降、ロシアに対してG7が経済制裁をしている。日本も制裁に参加している。

 「制裁を受けたまま、日本と経済関係をより高いレベルに上げられるのか」「ウクライナやシリアの問題を、なぜ日本は露日関係に結びつけるのか」「日本が(米国との)同盟で負う義務の枠内で、露日の合意がどのくらい実現できるのか、我々は見極めなければならない。日本はどの程度、独自に物事を決められるのか」

 アメリカの「承認」なしには何もできないだろうに、と見透かしている。「アメリカの承認をとったのか、ちゃんと承認を取っておけよ」と言われたようなものである。

 私は「恫喝」というようなことばは思いつかなかったが……。そのかわりに「アメリカの承認をとったのか、ちゃんと承認を取っておけよ」と言われたようなものである」と書いた。「要約」のかわりに、短いことばを長いことばで言いなおすのが、私の方法だからである。
 まるで私自身の「要約」を読んだ気持ちになってしまった。

 と、言いたいのだけれど。
 ちょっと「違和感」。
 私なら、絶対にこんなふうに書かないなあ、と思うところがある。
 もう一度「日刊ゲンダイ」の「前文」を引用する。便宜上、(番号)を挿入する。

来日直前、読売新聞のインタビューに応じたプーチン大統領が、
(1)北方領土の引き渡しについて「ロシアに領土問題はない」と言い放ち、
(2)さらに安倍政権を恫喝までしているからだ。
(1)もはや、領土問題は「ゼロ回答」に終わり、
(3)経済支援だけ食い逃げされるのは確定的である。

 「前文」の「論理」の順序と、本文の「論理」の順序が違う。「本文は」
(1)領土問題(ロシアに領土問題はない)
(2)経済支援食い逃げ
(3)日米関係を見直せと恫喝
 である。
 ふつうは「前文」の順序に記事を書く。順序が違うと、読んでいて違和感がある。どうして「前文」の順序通りに「本文」を書かなかったのか、ここがとても疑問である。

 「日刊ゲンダイ」のために書いておけば、もちろん私の書いたものとは違う部分がある。そのために「順序」を変える必要があったのか。
 私は(1)(2)(3)と整理したが、「日刊ゲンダイ」の分析は(2)と(3)の間に、次の文章挟んでいる。
 
(日刊ゲンダイ)
「領土引き渡しが進まないことは覚悟していましたが、さすがに会談直前のプーチン発言には官邸もショックを受けています。でも、“地球儀俯瞰外交”を自慢し、プーチン大統領との信頼関係をウリにしてきた安倍首相は、いまさら日ロ会談を失敗させられない。形だけでも整えるしかない。実際、ロシアが望む経済支援は予定通り進めることになります。5月に首相と会った時、プーチン大統領は領土問題の進展に前向きだったのに、土壇場でちゃぶ台返しをされた格好です」(外交関係者)

 「記者」なので、インタビュー記事の分析だけでなく「外交関係者」にインタビューし、コメントを取っている。
 ただ、この部分について言えば、私は「日刊ゲンダイ」の書いていることが納得できない。「5月に首相と会った時、プーチン大統領は領土問題の進展に前向きだったのに、土壇場でちゃぶ台返しをされた格好です」は信じることができない。
 事前にあった日露外相会談。そのとき「5月会談」のことをロシアのラブロフ外相が暴露している。このことについては12月04日に「日露外相会談の大失態」というタイトルで書いている。

 2016年12月04日読売新聞(西部版・14版)の2面に「共同経済活動/首相から提案/5月の首脳会談」という1段見出しの記事がある。

 安倍首相が5月にロシア南部ソチでプーチン大統領と会談した際、北方領土での「共同経済活動」を提案していたことがわかった。複数の日本政府関係者が明らかにした。これまでは、11月のペルーでの日露首脳会談でプーチン氏側が提案したとされていた。
 これに関連し、ロシアのラブロフ外相は日の日露外相会談後の記者会見で、「今年行われた会談で、日本の首相は共同経済活動に関して何ができるか考えてみると提案した。ロシア大統領は同意し、しかるべき検討が始まった」と述べた。

 うーん。私は、うなった。
 この記事は記述の順序(時系列)が逆では? ラブロフが「裏話」を明かした。いままで聞いていることと違う。大急ぎで「政府関係者」に裏を取ったら、5月の会談内容がわかったということでは。
(略)
 ラブロフはなぜそんなことを言ったのか。
 日露首脳会談では北方領土の問題が話題になるはずだが、ロシアの方としては「北方領土の返還(引き渡し)」など知らない。そんなことは「話題」にしたことはない、と言いたいのだろう。日本では「経済協力(経済投資)」の見返りに「二島返還」が語られているが、その「経済協力」というのも日本から言い出したことであって、ロシアが求めたものではない。だから「経済投資の見返りに二島返還」という「論理」はおかしい。「経済投資」は「経済投資」としてのみ話すべきことがらである。それを明らかにするために言ったのである。

 この段階で、日露首脳会談がロシアが日本から経済協力をぶんどるだけの会談に終わることはわかっていた。
 それを見落として、「外交関係者」の「5月に首相と会った時、プーチン大統領は領土問題の進展に前向きだったのに、土壇場でちゃぶ台返しをされた格好です」ということばを「鵜呑み」にしているのが、とても変。
 安倍を批判するなら、その「声」に対して、私なら、「でも5月の会談で、安倍が経済協力、共同経済活動を持ち出したとロシアの外相は言っていないか。5月の会談時点で安倍は会談に失敗していたのではないか」と追及する。
 「日刊ゲンダイ」は最後に天木直人のことばを引いているが、記者の文章(分析)より長く感じられる。こんなふうに他人のことばに頼るのなら、最初から天本の文章だけを紹介すればいいのに、と私は思う。
 疑問の残る記事だった。


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1 コメント

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Unknown (yazu)
2016-12-16 12:54:25
日刊ゲンダイの記者は、政治ブログとか阿修羅のコメントなどを参考にして記事を書いているように見受けられるのは俺だけであろうか・・・!?
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