詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

細田傳造「泣く(一)」

2025-02-22 23:03:11 | 詩(雑誌・同人誌)

細田傳造「泣く(一)」(「雨期」84、2025年02月20日発行)

 細田傳造「泣く(一)」の一行目。

この如月を泣くまご娘よきみを泣く

 助詞「を」の使い方が変である。「この如月を泣く」とはふつうは言わない。「きみを泣く」とも、もちろんふつうは言わない。私はときどき外国人に日本語を教えているので、こういう「を」の使い方をしたら、「間違っている」と指摘し、それを日本語らしく修正するように指導する。
 でも、現実には、そういう「正しい文法」だけではつたえられない何かがある。そして、それにぶつかったとき、ひとは文法を無視して、「間違える」。実感を大切にする、というよりも、実感が文法を追い越していく。
 この詩は、

ひたぶるにきみを泣く
二月のあいだずぅーときみを泣いた
ランドセルしょってぴりぴりに凍った道に出てゆく
小学二年のきみを泣いた
日が暮れて鬼子母神
石段の下で母をまつきみを泣いた

 とつづいたあとで、

夜になって五蜀の灯りも点けないで真っ暗闇を眠るきみを泣いた

 あ、これは、いまの「まご娘」ではない、と気づかされる。だって「五蜀」なんて、いまは言わない。「ワット」さえ、LEDが主流になって、もう言わないかもしれない。(私は、まだ蛍光灯をつかっているので「ワット」をつかうが。)だから「まご娘」が幼い細田に見えてくる。ふたりが重なる。
 この変化のあと、

しおかれて西の鳥居ほろほろぬけて
居酒屋みどりのカウンターにとまり
みみずくの鳥になってきみを泣いた

 ああ、こうなると、もう「まご娘」は完全に消えてしまう。
 文法的には「(私=細田は)みみずくの鳥になって(みみずくのように、夜行性の生き物になって)きみを泣いた」なのだが、まるで、「まご娘」が「みみずくの鳥になって(夜に働く女になって)泣いている」と「誤読」してしまう。
 最初の「この如月を泣くまご娘よきみを泣く」も「私はこの如月を泣くまご娘よきみそのものになって泣く」なのだろう。「きみを泣く」の「を」は、きみと私を切り離せないものとして、つまり一体となって、泣くということなのだろう。「この如月を泣く」も「如月と一体になって(如月のなかにどっぷりとつかって)泣く」と言い換えることができるだろう。
 日本語を学ぶ外国人相手なら、私は、そんなふうに「修正」するように指導するだろう。
 まあ、そんなことは、どうでもよくて。
 私が、いま、便宜上「一体になる」というようなことを書いたのだが(その前には「重なる」ということばもつかったのだが)、これを細田は、別のことばで書いている。
 その「書き換え」がすごい。

わかるなあ
つごもりの鳥目(ちょうもく)をしまいながら女将さんが言った
わかるなあ
関東煮(かんとだき)の湯気のむこうで女将さんが
もいちど言った

 「わかる」である。「一体になる」とは、「わかる」ことである。
 で「わかる」が「一体になる」ということだから、「わかる」と女将が言うとき、彼女は細田の「まご娘」であり、細田でもある。そして、この「一体になる/わかる」のなかにあるのは、「いま」だけではない。「五蜀の灯り」が暗示するように、「歴史」がある。生きてきた「時間」がある。「生きてきた時間ごと」一体になる。それは生きてきた時間が「わかる」ということだ。
 「雨期」には、もう一篇「泣く(二)」が載っている。それは「生きてきた時間」を違う角度から描いた作品である。これも傑作である。
 
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