谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(36)(創元社、2018年02月10日発行)
「武満は好きな絵を仕事場は置かなかったそうだ。」で始まる文章に、こういう一段落がある。
わかるようで、わからない。つまり考えさせられる。いや、考えさせられるではないなあ。ここから「何か」を感じてしまう。
こういうことは「感じた」ままにしておくのがいいと思う。
この文章を書いている谷川は、もう「おろおろ」していないかもしれない。
でも、私は「おろおろする」。そして、おろおろしたままにしておく。
かわりに、私の武満徹への思い出を書いておく。
ある日、FM放送を聴いていたら「海へ」という曲が聴こえてきた。武満の曲である。曲に刺戟されて「海へ」という詩を書いた。詩を書いたあと、もう一度聴きたいと思ったが、レコードがわからない。
どうやって調べたのか忘れたが、私は武満に手紙を書いた。「あの曲をもう一度聴きたい、レコードは出ていないだろうか」。書いたばかりの詩を同封したかもしれない。
武満から返事が来た。北欧の音楽祭へ行く途中の羽田空港(あるいは成田だったろうか)から書いているという。演奏者とレーベルの名前が書いてあった。FMで聴いたのはフルートとギターだったか、フルートとピアノだったか、あるいはバイオリンだったか。その奏者(また楽器の構成)とは違うのだが、という断り書きがあった。
そのときのはがきも、レコードも、そして私の書いた詩も、なくなってしまった。
覚えているのは、出国する寸前のあわただしい時間を割いて、武満がはがきをくれたということだけだ。それが忘れられないのは、そこに武満の「人間性」を感じたからだ。見ず知らずの私の質問に、きちんと答えてくれる。そこには、谷川のことばを借りて言えば「愛情」がある。音楽への、生きることへの。
*
「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
「武満は好きな絵を仕事場は置かなかったそうだ。」で始まる文章に、こういう一段落がある。
武満が浅香さんをなぐったのを、私はただ一度だけ目の前で見た
ことがある。彼が音楽をつけたある芝居を、浅香さんが私たち夫婦
に同調して批判したのが理由だった。そのとき私はおろおろするば
かりだったが、いまはそれが愛情からだったということがよく分か
る、妻への、音楽への、そして生きることへの。
わかるようで、わからない。つまり考えさせられる。いや、考えさせられるではないなあ。ここから「何か」を感じてしまう。
こういうことは「感じた」ままにしておくのがいいと思う。
この文章を書いている谷川は、もう「おろおろ」していないかもしれない。
でも、私は「おろおろする」。そして、おろおろしたままにしておく。
かわりに、私の武満徹への思い出を書いておく。
ある日、FM放送を聴いていたら「海へ」という曲が聴こえてきた。武満の曲である。曲に刺戟されて「海へ」という詩を書いた。詩を書いたあと、もう一度聴きたいと思ったが、レコードがわからない。
どうやって調べたのか忘れたが、私は武満に手紙を書いた。「あの曲をもう一度聴きたい、レコードは出ていないだろうか」。書いたばかりの詩を同封したかもしれない。
武満から返事が来た。北欧の音楽祭へ行く途中の羽田空港(あるいは成田だったろうか)から書いているという。演奏者とレーベルの名前が書いてあった。FMで聴いたのはフルートとギターだったか、フルートとピアノだったか、あるいはバイオリンだったか。その奏者(また楽器の構成)とは違うのだが、という断り書きがあった。
そのときのはがきも、レコードも、そして私の書いた詩も、なくなってしまった。
覚えているのは、出国する寸前のあわただしい時間を割いて、武満がはがきをくれたということだけだ。それが忘れられないのは、そこに武満の「人間性」を感じたからだ。見ず知らずの私の質問に、きちんと答えてくれる。そこには、谷川のことばを借りて言えば「愛情」がある。音楽への、生きることへの。
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「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
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目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
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