皇后の悲鳴/「生前退位」ということば
自民党憲法改正草案を読む/番外35(情報の読み方)
2016年10月20日読売新聞朝刊(西部版・14版)の一面に、びっくり仰天する記事が載っている。「皇后さま82歳/「生前退位」事前に相談/陛下 皇太子・秋篠宮さまと」という見出しで、皇后が82歳になったこと、宮内庁記者会の質問に文書で答えたことが書かれている。その記事の途中に、
という1段見出しがあり、記事はこうつづいている。
そうか、「生前退位」は、皇室側から出てきたことばではないのか。ここに仰天したのである。天皇が皇太子、秋篠宮と「相談」するとき「退位」ということばをつかっていたのなら、その相談の場に皇后がいなくても、それは当然、皇后にも自然に伝わったであろう。
では、「相談」の場では、どんなふうなやりとりがあったの。「6年前から「譲位」ご意向」という見出しの記事に、こうある。
天皇は「生前退位」ではなく、「生前譲位」の意向を持っていたことになる。読売新聞は「陛下が退位の意向を示されたのは」と書いているが、正確には「陛下が譲位の意向を示されたのは」と書かないことには、天皇の意思が伝わらないだろう。
問題は「生前退位」ということばをだれが言い始めたか、つかい始めたかということである。
皇后の回答全文には、
とあるが、新聞が「生前退位」ということばをつかう前に、籾井NHKが夜7時のニュースで「生前退位」をつかったと私は記憶している。「生前譲位」とは言っていなかったと思う。
そうであるなら、なぜ籾井NHKは「生前譲位」ではなく「生前退位」ということばをつかったかである。
今回の報道は宮内庁側からリークされたという見方があるが、もしそうであるなら、宮内庁側は「生前退位」ではなく「生前譲位」という表現で伝えただろう。天皇が「譲位」ということばをつかっていて、「退位」ということばをつかっていないことは、宮内庁関係者の間ではわかっているからである。天皇が「譲位」と言っているのに、それを「退位」と言い換えた人間がいる。そうでなければ「退位」ということばは生まれない。
私は一連の報道のはじまりは「官邸」にあると感じている。天皇を「退位」させたい人間がいて、その人間が「退位」という表現で天皇の動向をリークしたのである。天皇の健康などに配慮し、「譲位」を勧めるのではなく、「退位」を勧める。
「譲位」ならだれに「譲位」するか、という部分に天皇の気持ちが入る。もちろん憲法にも皇室典範にも「皇位継承」の規定はあるから、それにのっとっての「譲位」ではあるが、「譲る」という思いが入る。
しかし「退位」では、「思い」が入らない。ただ規定にしたがって「継承」が進む。
これは別の角度から言えば、天皇の「思い」以外のものを「継承」に組み込むことができるという「余地」を残すことである。
私の書いていることは「妄想」かもしれない。しかし、「妄想」であっても、それを書いておきたい。「論理」として、私の「妄想」が成り立つなら、そういうことを考える人がほかにいてもかまわないことになるからだ。
「生前退位(生前譲位)」は当然「皇位継承」の言い換えである。その「皇位継承」を審議する「有識者会議」の検討項目に、「女性・女系天皇」が含まれていない。「特例法(現在の天皇に限っての法)」だから検討項目にしないということなのかもしれないが、いまの規定で行けば、皇位は皇太子に継承される。皇太子が天皇になると、皇太子の不在という状態になる。それがわかりきっているのに、ただ天皇を「退位」させることだけを考えて討議するように見える。
こんな場当たり的な討議しかしないのに、それで「有識者会議」と言えるのか。将来を視野に入れない「場当たり会議/主催者の言いなり会議」である。
「女性・女系天皇」については小泉内閣時代に審議された。そこでは「女性・女系天皇」を認める方向で意見が集約されたのに、安倍が強行に反対した。「皇位継承者」のなかに男児(悠仁)が誕生したからである。「女性・女系天皇」を認めれば男子(悠仁)が皇位を継承する可能性が低くなる。安倍は、最終的に悠仁に皇位を継承させたいのである。「悠仁天皇」の「生みの親」とし自分を位置づけたいのである。それは小泉内閣時代からの安倍の野望なのである。その野望のもとで、「生前退位」ということばが動いている。籾井NHKをつかって「情報操作」をしている。
もし「生前退位」ではなく「生前譲位」ということばで報道されてたら、今回の報道、国民の関心は、どうなっていただろうか。
「生前退位」では視線はどうしても「退位する」という動詞の「主語」、天皇に向かう。そうか、天皇は高齢で、いろいろなことが負担になっているのか。それについて配慮する必要があるという具合。
けれど「譲位」ではどうか。「譲位する」の「主語」は天皇だが、「譲位」にはもうひとつ「譲位される」という「動詞」があり、そのとき「主語」は皇太子になる。視線は天皇を見つめていた時よりも、さらに長い将来へ向けられる。皇太子が天皇になったあとは、どうなる? その次の天皇は? どうしたって、人は、そう考える。
「生前退位」ということばをつかい、情報操作をしている人間は、国民に「皇太子が天皇になったあとは、どうなる?」ということを考えさせたくないのだ。どうするか、という考えを「独占」したいのだ。
私は、そう「妄想」するのである。この「妄想」を、今回の皇后のことばが後押ししてくれる。皇后のことばに後押しされ、私の「妄想」は「確信」に近くなる。皇后の「驚きと痛み」は、何も歴史の書物のなかに「生前退位」という表現がないことに起因するわけではないだろう。だれかが天皇のことばを「言い換えている」ということに対する批判/悲鳴なのである。
天皇の「生前退位」は、安倍が籾井NHKうつかって流した情報操作なのである、と私はあらためて「妄想する」。「確信」する。
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自民党憲法改正草案を読む/番外35(情報の読み方)
2016年10月20日読売新聞朝刊(西部版・14版)の一面に、びっくり仰天する記事が載っている。「皇后さま82歳/「生前退位」事前に相談/陛下 皇太子・秋篠宮さまと」という見出しで、皇后が82歳になったこと、宮内庁記者会の質問に文書で答えたことが書かれている。その記事の途中に、
「表現に驚き」
という1段見出しがあり、記事はこうつづいている。
「生前退位」という表現で報道されたことについては「衝撃は大きなものでした」と述べ、その理由を「それまで私は、歴史の書物のなかでもこうした表現に接したことが一度もなかったので、一瞬驚きとともに痛みを覚えたのかもしれません」と続けられた。
そうか、「生前退位」は、皇室側から出てきたことばではないのか。ここに仰天したのである。天皇が皇太子、秋篠宮と「相談」するとき「退位」ということばをつかっていたのなら、その相談の場に皇后がいなくても、それは当然、皇后にも自然に伝わったであろう。
では、「相談」の場では、どんなふうなやりとりがあったの。「6年前から「譲位」ご意向」という見出しの記事に、こうある。
関係者によると、陛下が退位の意向を示されたのは、2010年7月22日の「参与会議」だった。皇室の相談役となる参与や当時の宮内庁長官、侍従長らの前で、高齢の天皇の対処として「摂政」という制度もあるが、陛下は「譲位したい」と表明された。
天皇は「生前退位」ではなく、「生前譲位」の意向を持っていたことになる。読売新聞は「陛下が退位の意向を示されたのは」と書いているが、正確には「陛下が譲位の意向を示されたのは」と書かないことには、天皇の意思が伝わらないだろう。
問題は「生前退位」ということばをだれが言い始めたか、つかい始めたかということである。
皇后の回答全文には、
新聞の一面に「生前退位」という大きな活字を見た時の衝動は大きなものでした。
とあるが、新聞が「生前退位」ということばをつかう前に、籾井NHKが夜7時のニュースで「生前退位」をつかったと私は記憶している。「生前譲位」とは言っていなかったと思う。
そうであるなら、なぜ籾井NHKは「生前譲位」ではなく「生前退位」ということばをつかったかである。
今回の報道は宮内庁側からリークされたという見方があるが、もしそうであるなら、宮内庁側は「生前退位」ではなく「生前譲位」という表現で伝えただろう。天皇が「譲位」ということばをつかっていて、「退位」ということばをつかっていないことは、宮内庁関係者の間ではわかっているからである。天皇が「譲位」と言っているのに、それを「退位」と言い換えた人間がいる。そうでなければ「退位」ということばは生まれない。
私は一連の報道のはじまりは「官邸」にあると感じている。天皇を「退位」させたい人間がいて、その人間が「退位」という表現で天皇の動向をリークしたのである。天皇の健康などに配慮し、「譲位」を勧めるのではなく、「退位」を勧める。
「譲位」ならだれに「譲位」するか、という部分に天皇の気持ちが入る。もちろん憲法にも皇室典範にも「皇位継承」の規定はあるから、それにのっとっての「譲位」ではあるが、「譲る」という思いが入る。
しかし「退位」では、「思い」が入らない。ただ規定にしたがって「継承」が進む。
これは別の角度から言えば、天皇の「思い」以外のものを「継承」に組み込むことができるという「余地」を残すことである。
私の書いていることは「妄想」かもしれない。しかし、「妄想」であっても、それを書いておきたい。「論理」として、私の「妄想」が成り立つなら、そういうことを考える人がほかにいてもかまわないことになるからだ。
「生前退位(生前譲位)」は当然「皇位継承」の言い換えである。その「皇位継承」を審議する「有識者会議」の検討項目に、「女性・女系天皇」が含まれていない。「特例法(現在の天皇に限っての法)」だから検討項目にしないということなのかもしれないが、いまの規定で行けば、皇位は皇太子に継承される。皇太子が天皇になると、皇太子の不在という状態になる。それがわかりきっているのに、ただ天皇を「退位」させることだけを考えて討議するように見える。
こんな場当たり的な討議しかしないのに、それで「有識者会議」と言えるのか。将来を視野に入れない「場当たり会議/主催者の言いなり会議」である。
「女性・女系天皇」については小泉内閣時代に審議された。そこでは「女性・女系天皇」を認める方向で意見が集約されたのに、安倍が強行に反対した。「皇位継承者」のなかに男児(悠仁)が誕生したからである。「女性・女系天皇」を認めれば男子(悠仁)が皇位を継承する可能性が低くなる。安倍は、最終的に悠仁に皇位を継承させたいのである。「悠仁天皇」の「生みの親」とし自分を位置づけたいのである。それは小泉内閣時代からの安倍の野望なのである。その野望のもとで、「生前退位」ということばが動いている。籾井NHKをつかって「情報操作」をしている。
もし「生前退位」ではなく「生前譲位」ということばで報道されてたら、今回の報道、国民の関心は、どうなっていただろうか。
「生前退位」では視線はどうしても「退位する」という動詞の「主語」、天皇に向かう。そうか、天皇は高齢で、いろいろなことが負担になっているのか。それについて配慮する必要があるという具合。
けれど「譲位」ではどうか。「譲位する」の「主語」は天皇だが、「譲位」にはもうひとつ「譲位される」という「動詞」があり、そのとき「主語」は皇太子になる。視線は天皇を見つめていた時よりも、さらに長い将来へ向けられる。皇太子が天皇になったあとは、どうなる? その次の天皇は? どうしたって、人は、そう考える。
「生前退位」ということばをつかい、情報操作をしている人間は、国民に「皇太子が天皇になったあとは、どうなる?」ということを考えさせたくないのだ。どうするか、という考えを「独占」したいのだ。
私は、そう「妄想」するのである。この「妄想」を、今回の皇后のことばが後押ししてくれる。皇后のことばに後押しされ、私の「妄想」は「確信」に近くなる。皇后の「驚きと痛み」は、何も歴史の書物のなかに「生前退位」という表現がないことに起因するわけではないだろう。だれかが天皇のことばを「言い換えている」ということに対する批判/悲鳴なのである。
天皇の「生前退位」は、安倍が籾井NHKうつかって流した情報操作なのである、と私はあらためて「妄想する」。「確信」する。
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