詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

伊藤比呂美「チャパラル」

2018-12-17 07:56:11 | 2018年代表詩選を読む
伊藤比呂美「チャパラル」(「現代詩手帖」2018年12月号)

 伊藤比呂美「チャパラル」(初出『たそがれてゆく子さん』、8月)。

この土地に二十数年住み果てて
チャパラルということばを知った

 と始まる。つづきを読むと「竜舌蘭」の類の草木のように思えるが、よくわからない。「翻訳できない」という行を含んで、チャパラルの野(山)を歩く。
 そのあと、最終連。

どんぐりが生るのを見た
コヨーテの呼ぶのを聞いた
コヨーテの食べ残しを見た
それはうさぎの尻尾だった
月がのぼるのを見た
日がしずむのを見た
日がのぼるのを見た
雨が降るのを見た
雷が鳴るのを聞いた
人と出会って、人と別れた
花が咲くのを見た
咲いた花が枯れるのを見た
枯れ果てたのを見た

 「見た」「聞いた」が繰り返される。知覚動詞をとりはらうと「神話」になる。でも、伊藤は、これを「神話」にしない。あくまで伊藤個人の体験に閉じ込める。
繰り返される「見た」「聞いた」は、一連目に出てきた「知った」と、どう違うのだろうか。私は違わないと思う。伊藤にとって「見る」「聞く」は「知る」ことである。「知る」というのは、最終連のことばを借りて言えば「出会う」である。だから「別れる」はきっと「記憶する」である。「忘れない」である。
で、この「知る」「記憶する」「忘れない」を、私は「見た」「聞いた」というこことばがつかわれていない部分に補って読む。

それはうさぎの尻尾だった

それはうさぎの尻尾だと「知った」。そのうさぎの尻尾を「記憶する」。そのうさぎの尻尾を「忘れない」。
ここから最初の連に戻る。

この土地に二十数年住み果てて
チャパラルということばを知った

は、

この土地に二十数年住み果てて
チャパラルということばを「記憶した/忘れない」

 そう読み直すと、そうか、伊藤は「この土地」をいずれ離れるという意識をこめて書いているのだな、と「誤読」できる。すでに「離れた」のかもしれない。でも、けっして「忘れない」。そのために書く。




*

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