中村和恵「今後のあるまじろ」、野木京子「ウラガワノセイカツ」(「現代詩手帖」2018年12月号)
中村和恵「今後のあるまじろ」(初出「妃」20号、9月)。
「あるまじろ」は「わたし」の比喩? あるまじろになったつもりで、あるまじろの気持ちを書いている? わからない。まあ、わからなくても、かまわない。
「よって」というのは論理的なことばだが、あるまじろが「漢方薬」になるのは論理的かどうかわからない。ここからわかることは、ことばというのは「論理」を装えば、なんだって論理にできるということである。
で、そういういい加減さ(?)というか、ずうずうしさ(きっと、こっちの方だな)を発揮してことばは展開していく。その部分はその部分でおもしろいが、引用すると長くなるので省いて。
最後。
「でね」というのも論理のことば。でも、ぜんぜん論理的じゃないね。論理を捏造しているだけ。
それなのに。
この一行が「肉体」を誘う。
「おしりとおでこをぴったり合わせ眼も閉じて丸まって」みたくなる。つまり、あるまじろになってみたくなる。「肉体」で形をまねると、あるまじろになれる気がしてくる。私なんかは。ここには「ことばの論理」ではなく「肉体の論理」のようなものがある。
道端で腹を抱えてうずくまっている人を見ると、「あ、腹が痛いんだ」と思うのに似ているなあ。
いや、あるまじろは人間じゃないから、どう思っているかは想像がつかないけれど、なんとなくあるまじろが感じていること、あるまじろの「肉体」の感じがわかるような気がする。
そして「トキトキいってるでしょう」。これは、どうしたって心臓の音、血液が流れる音。「生きてる」と感じる。
「おしりとおでこをぴったり合わせ」ということはできないが、「肉体」をかぎりなく丸めるとき、自分の心臓の音が聞こえない? そうやって心臓の音、血液が流れる音を聞いたことって、ない?
そのとき、不安というか、安心というものを思い出すなあ。
*
野木京子「ウラガワノセイカツ」(詩集『クワカ ケルル』9月)は、山田小実昌の「ポロポロ」を思い出させるような書きぶり。
うーん、でも、むずかしいなあ。「ぽこぽこ」が「人間」に見えない。中村の「あるまじろ」が人間に見えるのとはずいぶん違う。野木は人間を書いているわけではない、というかもしれないけれど。
何を書いているにしろ、私は「人間」を読みたいので、言い換えると「肉体」を読みたいので、あまりおもしろくない。
「ぽこぽこ」が「関係」を意味する(象徴する/抽象化する)ものだと仮定して言えば、「関係」を書くのは、詩にはむずかしい仕事だと思う。詩はあくまで「具体」だから。「関係」であっても、抽象ではなく「具体」的な「比喩/もの」として提示されないと、つかみようがない。
私は頭が悪いせいかもしれないが。
*
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*
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中村和恵「今後のあるまじろ」(初出「妃」20号、9月)。
食物連鎖の外で生きるのは
おそろしく孤独
よってわたし あるまじろは
漢方薬になりたい
「あるまじろ」は「わたし」の比喩? あるまじろになったつもりで、あるまじろの気持ちを書いている? わからない。まあ、わからなくても、かまわない。
「よって」というのは論理的なことばだが、あるまじろが「漢方薬」になるのは論理的かどうかわからない。ここからわかることは、ことばというのは「論理」を装えば、なんだって論理にできるということである。
で、そういういい加減さ(?)というか、ずうずうしさ(きっと、こっちの方だな)を発揮してことばは展開していく。その部分はその部分でおもしろいが、引用すると長くなるので省いて。
最後。
でね肝心なのはここんところなの
なにになってもならなくても
おしりとおでこをぴったり合わせ眼も閉じて丸まっていても
あるまじろはまだ ここ にある
あるまじろのままある
聞こえなくても聞いてみて
ほら トキトキいってるでしょう
「でね」というのも論理のことば。でも、ぜんぜん論理的じゃないね。論理を捏造しているだけ。
それなのに。
おしりとおでこをぴったり合わせ眼も閉じて丸まっていても
この一行が「肉体」を誘う。
「おしりとおでこをぴったり合わせ眼も閉じて丸まって」みたくなる。つまり、あるまじろになってみたくなる。「肉体」で形をまねると、あるまじろになれる気がしてくる。私なんかは。ここには「ことばの論理」ではなく「肉体の論理」のようなものがある。
道端で腹を抱えてうずくまっている人を見ると、「あ、腹が痛いんだ」と思うのに似ているなあ。
いや、あるまじろは人間じゃないから、どう思っているかは想像がつかないけれど、なんとなくあるまじろが感じていること、あるまじろの「肉体」の感じがわかるような気がする。
そして「トキトキいってるでしょう」。これは、どうしたって心臓の音、血液が流れる音。「生きてる」と感じる。
「おしりとおでこをぴったり合わせ」ということはできないが、「肉体」をかぎりなく丸めるとき、自分の心臓の音が聞こえない? そうやって心臓の音、血液が流れる音を聞いたことって、ない?
そのとき、不安というか、安心というものを思い出すなあ。
*
野木京子「ウラガワノセイカツ」(詩集『クワカ ケルル』9月)は、山田小実昌の「ポロポロ」を思い出させるような書きぶり。
きょうぽこぽこがわたしのところにおりてきて
ぽこぽこ
響きもなく周りをまわっている
うーん、でも、むずかしいなあ。「ぽこぽこ」が「人間」に見えない。中村の「あるまじろ」が人間に見えるのとはずいぶん違う。野木は人間を書いているわけではない、というかもしれないけれど。
何を書いているにしろ、私は「人間」を読みたいので、言い換えると「肉体」を読みたいので、あまりおもしろくない。
「ぽこぽこ」が「関係」を意味する(象徴する/抽象化する)ものだと仮定して言えば、「関係」を書くのは、詩にはむずかしい仕事だと思う。詩はあくまで「具体」だから。「関係」であっても、抽象ではなく「具体」的な「比喩/もの」として提示されないと、つかみようがない。
私は頭が悪いせいかもしれないが。
*
「高橋睦郎『つい昨日のこと』を読む」を発行しました。314ページ。
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なお、私あてに直接お申し込みいただければ、送料は私が負担します。ご連絡ください。
「詩はどこにあるか」10・11月の詩の批評を一冊にまとめました。
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オンデマンド形式です。一般書店では注文できません。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
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(3)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
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