谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(23)
(寂しさに入る)
寂しさに
入ると
空が
生き返る
過去の
影を
懐かしみ
未来の
幻を
もてあそび
円相を
転がして
戯れる
日々
*
聞いたことはあるが、私がつかわないことばが、今回の詩集にはたくさんある。「円相」もそのひとつ。読んだ瞬間、一連目の「空」が「くう」に変わった。「無」があらわれ、動詞「入る」が「生き返」った。
*
(永遠が恵む)
永遠が
恵む
束の間の
音
時の
流れを
遡り
古楽器と
辿る
木版の
道に
咲き誇る
今日の
花々
*
「永遠」と「今日」のあいだに何があるか。「木版の/道」に私は引きつけられた。私は木の彫刻家か木版画家に憧れたときがあった。あのときは、「永遠の花」が見えた。私の「永遠」は、あのとき、だったのか。
*
(あなたと)
あなたと
私
天と
地
闇が
光を生み
光が
闇を生む
大気と水
言葉と
音楽
終わらない世界
それだけで
いい
*
「それだけ」と谷川は書くが、「それ」とは何か。「私」「あなた」を始めいくつも名詞が出てくる。「それだけ」というには多すぎる。一方、動詞は「生む」だけ。そうか、「生む」があるかぎり「終わらない」。