大山顕さんという建築系ライターさんがいて、デイリーポータルzに、「かわいいビル」についての記事を何度も書いていらっしゃいます。
特に古い時代の小さ目のビルには、あちこちにまるみがあったり、建物自体や窓枠にあえてふちどり線のデザインを採用していたりなど、なんともいえないかわいさがあるというのです。
2008 「デビル」(デッドストックビル/古いビル)を鑑賞する
2009 「デ・ビル」に夢中
2012 かわいいビルを求めて
2017 「かわいいビル」はなぜかわいいのか
建築ってなんだか複雑で難しそうで、味わいどころってさっぱり分かりませんでしたが、これを読んで、そうか、「かわいい」という観点でもいいのか、と目からウロコが落ちました。
古いビルは、まさに「かわいい」に同感。
特に私は「角丸」の意匠が好みです。
台湾は、紫外線が強いのでペンキ塗装がすぐに傷んでしまうためか、表面にタイルをよく使います。
古い時代のタイルは釉薬が厚めで不均一なのか、独特のぽってり感があって、現代のペッタリ平面的なタイルと趣が違います。
タイルのサイズも昔はかなり小さ目。小さい方が値段が安かったということもあるのでしょうか。
施工する手間は小さい方が大変だったはずですが、昔は工賃が安かったのでしょうね・。
台北や台中はじゃんじゃん再開発されていますが、台南には古い小型のビル(3階建とか4階建てとか)がまだ沢山残っています。
これまでは、道を歩いているときはショーウィンドウやそのビルの内部にばかり目が行っていましたが、ふと、道の反対側を見ると、可愛いビルだらけ。お店も何もない普通の道でも、実は見どころが沢山です。
この前(2019年3月)行った際、ぽってりしたタイル、そして丸っこい意匠をコレクションしてきました。
ぺかぺかの現代建築、台南市美術館2館から出たらすぐ、可愛いビルがみつかりましたよ。
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角ばった積木をごっちゃり寄せ集めたような、直線と平面からなるトガッた台南市美術館に比べると、角が丸かったり、曲線があったりする古いビルはなごむなあ。
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縦のパーツの下端が、くるっと丸く角をとってあります。 表面はどこもタイル張り。下(奥)側のこげ茶のタイル、および縦パーツの白いタイルは、おそらく建築当初のものです。 その間のベージュでまだらのタイルはどうかな。ほかよりも汚れがないように見えるので(まだらだから目立たないだけかもしれないけど)、貼りかえてあるかもしれません。
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古いビルには、エアコン室外機置き場がビル構造物として用意してあります。 これもまた見どころ。 タイル張りにしてあって、側面はきれいにカーブして刳りこんであって、なかなか気を使ったつくりですよね。 ここにタイル貼るの、手間暇かかったことだと思います。
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左側の面は、浅いくぼみの形が角丸、右側の斜めの面は交差点に面していて、この部分は直線的なデザインです。 わざわざ変えているみたい。
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となりのビル。こちらはくぼみの部分が角丸ではなくて、上端が半円のアーチ状。 ここに貼ってあるえんじ色のタイルは、汚れも少ないのでもしかしたら新しいものかもしれません。 白っぽい部分はよく見ると全部タイル張りで、古いままだと思います。室外機置き場はやはり側面が刳りこんであるタイプ。
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隣のビルと、白い部分は同じタイルかもしれません。 今となってはこの室外機置き場に嵌らないものもあるだろうなあ、と思ったらやはり。 この中央の室外機置き場は、パイプだけ来ています。室外機本体は1階にあるのか、長々と配管しています。
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こちらも窓周りに角丸のデザインが。 チェック模様のようなものが窪みでもって表現されています。 白い部分も、窪みの茶色の部分も全てタイル張りです。 窓のところ、カーブするように綺麗にタイルが貼ってあって仕事が綺麗です。
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どこからどこまでが1つのビルなのかよく分かりませんが、中央の部分、ぐいーんとせり出した構造が面白いです。
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支えている梁のような部分がカーブしてせり出していますし、それの土台部分もぐいーんと曲面になっています。 こういう反り返る部分にタイル貼るのって、大変そう。
右のビル、室外機置き場は、ボックス状ではなく、板状で、その上に室外機を乗せるようになっています。 三角形ぽい浅いでっぱりは、飾り・・?
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古びたふつうのビルに見えますが・・
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よく見るとあちこち、丸みをもたせてあります。そしてこのでっぱり部分は全部タイル張り。 ベランダの金属製の柵が、繊細なデザインです。
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4件長屋のビル。 看板がとりどりなので分かりにくくなっていますが、もともとは同じデザインの4軒です。 薄緑色のふちどり(小さな正方形のタイル)と、窓と窓の間の3本線(白い小さなタイル)がデザインのポイントでしょうか。 右からふたつめだけ、全面的に大き目の白いタイルに貼りかえてあります。
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中央と右側、どちらもベランダの部分が茶色いタイル張りですが、おそらく中央はやや古いもの。タイルにツヤがあり、意匠も凝っています。
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わざわざ中央がくぼんで、上と下にせり出すようになっています。
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かなり古い感じのビル。
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よく見ると、白い部分も青い部分も小さな正方形のタイル。 青い窪み部分は、角丸ではなく、角が切ってある形状です。
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エアコン室外機置き場は、上下に出っ張りがあってその間に挟むタイプ。
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一番左のビルは、細い開口部の上端角が角丸ですね。バルコニーは曲面になってます。 その右の黄色いビルは、窓部分の形が薬のカプセルのような形状で中央に縦の帯が。ガラス窓の下、わざわざ出っ張らせて2段階に装飾してあります。 その右のビルは、室外機置き場のデザインがポイントでしょうか。正面部分が横倒しのUみたいになっています。
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いろいろな経緯がありそうな一角。 一番右の薄水色タイルがあるものと、その左の茶色いタイルが目立つものは、窓まわりの部分の端っこが( )みたいになったデザインが共通しています。でも、なんか中途半端。 右端のは上が唐突にちょん切られていない? あと茶色のは、右半分だけになってない? 左から2つ目の区画だけは、比較的新しいもののように見えるのだけど、茶色の左半分と置き換わっていないかしら。 で、一番左。こ、これは?
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上もちょん切れているし、ファサードだけ残ってるし、映画のセットのよう・・。 裏側はいま、何か工事しているのかしらん?
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中央のビル、右端の茶色の部分には、上下に板が突き出しているタイプの室外機置き場。ここを白くしてアクセントにしています。
一方で右側のビル。同じく茶色のタイルの上に室外機置き場が3つありますが、これも上下板タイプですが色は茶色。 ちょっとテイストが違います。
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アンドレ・マルローがフランスの文化大臣だったころ(1960-69)、パリの歴史的建造物の洗浄事業を敢行したそうです。
それで、黒々と煤けた建物が建築当初のように復活。街並みが明るくなったそうです。
台南の古いビルはおそらくみな個人所有のものなので難しいかもしれませんが、市で補助するなど工夫して洗浄されたらいいのになあ、と思います。
電動バイクも増えてきて以前より空気は綺麗になっているはずで、いま綺麗にしたら結構ながくもつのではないかなあ。
素敵なタイルの建築、綺麗になったらもっと嬉しいです。
洗浄ではなく再開発によって、根本的に綺麗になってしまう可能性の方が高いかも。
懐かしい古いビル、今のうちに採集しておかねば、と思いました。
■参考情報
マルロー法とパリ、ディジョンの景観(pdf)