熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

エコノミストの見る日本(その3)・・・アジア外交、そして、靖国参拝

2005年10月18日 | 政治・経済・社会
   私が、今回のビル・エモットの日本特集で一番賛同するのは、「新しい東アジア、古い敵意~中国の対等が日本の地域を変えた、しかし、また、日本の政治をも変えている」と「靖国のあいまいさ」と言う部分である。
   イギリス人の良識とビル・エモットの大人の考え方が良く出ていて、日本への提言として適切だと思ったからである。

   まず、要約から入る。
   戦後の日本は、外交は別として、北朝鮮問題と中国の台頭が起こるまでは、歴史上大きな問題はなかった。
アメリカの核の傘でのミサイル防衛構想の下で安全が保障されていたからである。
   もっとも、中国と雖も、現時点では、経済的にも、軍事的にも日本の方が力が上で、当面の脅威ではない。日本の今日の経済的な脅威は韓国の方である。
   しかし、今日の脅威ではなくても、現在のように急速に国力を増し台頭してくると将来の脅威となり、やがて、中国が、貿易、投資、環境、更に、安全の分野での行動規範まで設定するようになる。
   これまで日本は、アメリカとの結束で良かったが、中国の経済成長がこのまま継続すると、中国とのリーダーシップ競争に負けて、あらゆる分野で覇権を握られてしまう。
   このことが、日本のプライドを傷つけ、国益を害する事となる。

   これを回避する為には、両国で協力して、他のアジアの諸国とアライアンスを形成して域内の共通のルールや手続き等を確立して、中国の力を削ぐことで、そのために国際組織や条約を活用することである。
   日本の位置はEUで言えば、敗戦国という意味ではドイツに近いが、アメリカとの関係が密接であるとか色々な意味ではイギリスに近い。
   しかし、フランスがEUを形成して、EUの威を借りて国際問題でより大きな発言力を行使し、或いは、域内の強力なライバルを押さえ込んだように、日本は、これ等の組織を活用して日本の大望を実現すべきである。

   ビル・エモットの言いたいのは、このまま座視すれば中国が日本を追い越してアジアの覇権を握る。
その前に、日本の国力と影響力のある間に、アジア諸国を糾合して、日本の意向と影響力を行使できるような国際組織を立ち上げ、アジア共通のルールを作って置け。
そうすれば、中国の覇権を抑制でき、日本の国益を守れる、と言うことであろうか。
   お説は御尤もなれど、アメリカ一辺倒で、中国や韓国とは靖国で揉めており、アジア諸国との外交もギクシャクしている小泉外交では当面、残念ながら無理である。

   靖国問題に移ろう。
   何処の国も戦死者を慰霊するのは当然である。
   しかし、靖国神社の場合は、新憲法によって政教分離されたが、1975年以降天皇の参拝は取りやめられたが、大祭には天皇の勅旨が行き、戦没者の名簿のある文書館は天皇の私募金で建てられている等関係がある。
   靖国神社の遊就館は、他国の公式博物館と違って、戦争のエネミーについて一切触れていないし、戦没者をアジア開放の英雄として賛美し、ここに日本の近代史の真実があると言っている。
   政府見解ではないが、公式には、日本は、サンフランシスコ平和条約の調印と同時に戦争判決を承認しながら、戦争に対する議論として、民主主義の為に止むを得ない戦争であったと主張している。
   控えめに言っても、この議論は、極右ではなく、首相と関係ある神社や自民党議員等によって行われていることが、ことをあいまいにしている。
   明確な解決方法の一つは、他の公式なメモリアルをつくること。千鳥が淵の戦没者慰霊碑や天皇皇后両殿下が参加される武道館での終戦の日の式典で機能している。
   私的であろうとなかろうと、特別なステイタスの靖国、その靖国そのものが問題なのである。

   昨日の小泉首相の靖国神社参拝について、英米のメディアは、比較的冷静に報道しているが、どちらかと言えば、呆れ顔であろうか。
   特に、強い論調は、日本の報道にあまり興味を持たない英国の良識の象徴であるインディペンデンス紙であるが、その報道を要約すると次のとおりである。

   小泉首相の靖国参拝は、既に摩擦含みの近隣諸国との関係ににさらにダメッジを与えた。靖国をアジアの人々は、日本軍国主義の象徴と考えている。
2週間前に、大阪高裁が、首相の靖国参拝に違憲判決を出した。
小泉首相は、選挙の勝利で、靖国参拝をプライベートだと主張すれば、外交の嵐を乗り切れると思ったフシがある。
小泉支持者は、首相が来年の退任前に、最も起爆力のある8月15日に参拝してくれることを期待している

   タイムズやニューヨークタイムズ、ファイナンシャル・タイムズ、ワシントンポスト等の報道だが、中国や韓国の対応を報じながら、8月15日を避けたが、終戦記念60周年に秋の大祭での私的な参拝、大阪高裁の違憲判決、悪化しているアジアとの関係修復が急務であるはずなのにそれを無視した参拝、等々ほぼ論調は同じであり、肯定した報道はなかった。

   地球にある総てのものを神にするヤオヨロズの神々の国日本。
政敵も、その怨念を静めるために神に仕立てて祭り上げる国日本。
この地球上の総ての森羅万象を神とするアニミズムの日本人の独特の宗教観が、ある意味では一番優れているのかも知れないが、世界の人々にこれを理解してもらうのは至難の業。
従って、靖国問題は、日本独特の宗教問題だから、ほって置いて欲しいといっても無理であろう。

   アジア外交では、ビル・エモットの言うように今一番重要な時期であり、大人としての対応をとって、国際社会の尊敬と信任を得て、国際社会で名誉ある地位を築くことが先である。
   靖国参拝を堅持して国の威信を守るというのなら、国際社会のあっちこっちで恥を忍んでいることを考えれば、もっと正攻法で堂々とした発揚の仕方はいくらでもある。
   それに、アジアには、強力な華僑社会があり、日本とコリアを除いて殆どアジア諸国が緊密に繋がっていることを忘れてはならない。
   これが中国と結束して日本に対応してくれば、日本の国益などひとたまりもなく吹き飛ばされてしまう。

   しかし、参拝問題だが、ハッキリしているのことは、日本には幸い同じ様な人物は存在しなかったとは言え、ヒットラーやムソリーニが祭られている神社や神殿には、たとえ日本人の私でも参拝しないであろうと言うことである。
   
   
コメント
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