熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

「安野光雅の世界」展

2006年10月11日 | 展覧会・展示会
   日本橋高島屋で「安野光雅の世界」展が開かれていて、人気を集めている。
   私も何度か安野光雅の絵画展には出かけているが、今回は、安野氏の故郷津和野に建設された町立安野光雅美術館の創立5周年記念の為の絵画展で、同美術館から作品160余点が来ており、初期の作品から多方面に亘った作品が展示されているので、体系的に総観出来て楽しい。

   津和野は、森鴎外や西周の故郷でもあり、非常に美しい小京都の風情のあるシックな山間の町で、何時行っても落ち着いた日本のふるさとを感じさせてくれる懐かしい田舎町である。

   館内に入場すると、最初に目に入る絵は、はじめての字のない絵本「ふしぎなえ」の挿絵で、3次元を2次元の平面に描いた不思議なだまし絵である。
   平面に描くのだから、離れたところで壁が床に変り、天井が床に変ると、人が横に歩いたり、逆さまに歩いたりしていても、その部分だけ見ていれば少しも不思議ではない。
   駐車場など、出口では総て一階になっていたり、迷路を人が逆さに歩いたりと、兎に角面白い。1968年と1971年の作品である。
   
   旅の絵本やヨーロッパの旅、即興詩人などの絵は、大半ヨーロッパの風景を中心とした作品なので、私自身のヨーロッパ生活の場であったところや旅をしたところが多いので、雰囲気が伝わってきて懐かしかった。
   それに、日本の原風景では、まだ最近まで残っていた奈良や京都の懐かしい風景や旅の徒然に訪れた地方の原風景が描かれいて、これも実に旅情を誘う。
   明日香、大原、耳成山など、確かに、あのような田舎道を学生時代に何度も歩いて歴史散歩を楽しんだ。

   もう一つ興味をそそるのは、花の絵である。
   「野の花と小人たち」は、全面に丁寧に描かれた野の花の中に、妖精のような小人たちが息づいている絵で、彩色が実に美しい。
   ほたるぶくろでは、小人の乙女が花を籠のように頭にのせて歩いていたり、どくだみでは、少年の小人が小便をしてる。
   「みちの辺の花」は、白紙に、すいせんやすずらん等を描いた清楚な絵で、花を育てたり写真を撮って楽しんでいるので、見るのが楽しい。

   絵本「シェイクスピア劇場」の絵は、昔、講談社の広報誌「本」で、松岡和子さんのエッセイに添えられて描かれていた絵で、夫々の戯曲の面白いシーンを絵にしていて毎月楽しみながら見ていた。
   ハムレットなどは、旅劇団が父王殺害を演出した劇中劇の場面を描いており、リア王は、息絶えたコーディーリアを抱いて戦場の跡を彷徨うリアを描いている。
   とにかく、劇中のシーンを豊かな着想で自在に描いていて、シェイクスピア・ファンには興味が尽きないと思う。

   何と言っても圧巻は、ずらりと並んだ絵本「平家物語」の原画である。
   これらの絵を描く為に、現地を踏査したと言うが、日本の絵巻を意識してか、絵のトーンが丁寧に描かれた歴史画の様な雰囲気で、夫々の場面に応じて実に克明に物語を追っている。
   私自身、平家の舞台を訪ねて昔よく京都や奈良近辺を歩いたので、小督や横笛などの絵の雰囲気が実に懐かしい。

   会場を出た所で、安野光雅氏が、図録や著書のサインをしていたので、図録にサインを貰って、この口絵の写真を写させて貰った。
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