上野の森美術館で、ダリ回顧展が開かれていて、来年の正月まで開催だと言うのに、平日にも拘らず大変な人出で、特に、中高年の多い従来の美術展と違って若い人々がつめ掛けていたのが非常に興味深かった。
1987年に84歳で生涯を終えたサルバトール・ダリの生誕100年記念だと言うが、ダリの故郷カタルーニァ・フェゲラスのガラ=サルバトール・ダリ財団とフロリダのサルバトール・ダリ美術館から作品が来ているので、結構世界の美術館を回っているのだが、全く始めてみる作品ばかり。
しかし、ダリ10代の頃の初期から晩年までの多くのバリエーションに富んだ作品が一挙に公開されているので、兎に角驚異的な迫力で、何時もは客の肩越しに飛び飛びに見るのだが、今回は久しぶりに、中々動かない鑑賞者の列に並んで最初から最後までじっくりと見て歩いた。
正味2時間、しかし、面白いほど、想像を掻き立ててくれる楽しい午後のヒトトキを過ごすことが出来た。
大分以前に、マドリードで、ダリの特別展を見た事があり、あっちこっちの美術館でダリの作品を見ているが、大体、美術書などに出ている大作なので、それなりに鑑賞を楽しめたが、今回のように、日頃知らないようなダリの作品などを一挙に沢山見せられると、ダリに対する印象が全く変ってしまう。
やはり、驚異的なシュールレアリスト画家であったことを実感させられる。
特に、相対性原理や量子物理学等科学的な思考に影響された後期の作品等を見ていると、ダリの分裂症気味の思考が益々冴え渡り、関係ないのに、何故か、複雑系の経営学や経済学を思い出してしまった。
ダリの故郷カタルーニァは、バルセローナしか行っていないが、ガウディやミロの故郷でもあり、兎に角、ここは極めて民族色の強いところで執拗にカタロニア語を守り抜いていて、スペインと言うよりは独立の地域国家であり、ホセ・カレーラスもそうだが、特異な逸材を沢山輩出している。
ダリのデザインした劇場美術館の写真を見ていると、バルセロナにあるガウディの建築物と殆ど雰囲気が変っていないのにビックリした。
ラテン系特有のイタリアとは一寸違った偉大な芸術の発露が開花していて面白いが、ダリの精巧な絵画の中の背後の風景には、カタルーニァの海岸か荒涼とした大地が描かれていて色濃く風土が表現されているのも興味深い。
この素晴らしい描写力を駆使した精巧な筆致で描いた風景を背景にして、時計が溶けて壁にへばりついたり、片目だけが大きくぎょろりとむき出した体から怪獣のような手が大きく飛び出したり、とにかく、奇妙な物体を配置した幻想的な世界を描出している。
この口絵の絵も、「夜のメクラグモ――希望!」と言う題名だが、チェロを弾く裸婦のとろけた顔の上にメクラグモが描かれてその下に平和の敵アリが這いずり回っている。杖に支えられた大砲様の筒から馬が飛び出し、それらの光景を天使が見ている。何がどうなっているのか分からないが、いやに想像を掻き立てる。
何を描いているか理解されたいかと聞かれて、ダリは描いている本人さえ何を描いているのか分からないのだと答えている。モーツアルとのように神がダリの手を動かせて絵を描いていたのかも知れない。
面白かったのは、「ヴォルテールの見えない胸像」のダブルイメージの絵で、遠くから見るとヴォルテールの胸像に見えるが、近づいて見ると、五人の貴族達の群像に見える。
精巧に描かれた「リチャード3世の扮装をしたローレンス・オリビエ」は、左向きの肖像に正面向きの顔を半分重ねて描かれていたが、これはピカソの世界である。
また、色々の名画や彫刻のイメージを使って絵を描いていたことで、ミレーの晩鐘やマルガリータ王女を描くベラスケスなど面白かった。
マルガリータの絵については、ピカソも何度も習作を描いているが、やはり、スペイン画家にとってベラスケスは偉大なのであろう。
最愛の妻ガラの綺麗なドローイングが展示されていたが、二人は同一の一つの玉子から生まれ出たのだと言う位だからダリの幻想的な絵の構想の多くはガラに触発されて生まれて来たのであろう。
愛に耽溺したのかエロチックな幻想画もあるが、他人の妻だったガラに恋をして苦楽を共にしガラの死後は筆を絶ったと言うダリ、劇場美術館の壁面トップの装飾に玉子が並んでいるのが面白い。
このダリだが、映画に興味があり、ヒッチコックやディズニーとも接点があったとか、アメリカにも移り住み、多彩な活躍をし続けた芸術家である。
このダリ回顧展は、十分に楽しめる素晴らしい企画である。
1987年に84歳で生涯を終えたサルバトール・ダリの生誕100年記念だと言うが、ダリの故郷カタルーニァ・フェゲラスのガラ=サルバトール・ダリ財団とフロリダのサルバトール・ダリ美術館から作品が来ているので、結構世界の美術館を回っているのだが、全く始めてみる作品ばかり。
しかし、ダリ10代の頃の初期から晩年までの多くのバリエーションに富んだ作品が一挙に公開されているので、兎に角驚異的な迫力で、何時もは客の肩越しに飛び飛びに見るのだが、今回は久しぶりに、中々動かない鑑賞者の列に並んで最初から最後までじっくりと見て歩いた。
正味2時間、しかし、面白いほど、想像を掻き立ててくれる楽しい午後のヒトトキを過ごすことが出来た。
大分以前に、マドリードで、ダリの特別展を見た事があり、あっちこっちの美術館でダリの作品を見ているが、大体、美術書などに出ている大作なので、それなりに鑑賞を楽しめたが、今回のように、日頃知らないようなダリの作品などを一挙に沢山見せられると、ダリに対する印象が全く変ってしまう。
やはり、驚異的なシュールレアリスト画家であったことを実感させられる。
特に、相対性原理や量子物理学等科学的な思考に影響された後期の作品等を見ていると、ダリの分裂症気味の思考が益々冴え渡り、関係ないのに、何故か、複雑系の経営学や経済学を思い出してしまった。
ダリの故郷カタルーニァは、バルセローナしか行っていないが、ガウディやミロの故郷でもあり、兎に角、ここは極めて民族色の強いところで執拗にカタロニア語を守り抜いていて、スペインと言うよりは独立の地域国家であり、ホセ・カレーラスもそうだが、特異な逸材を沢山輩出している。
ダリのデザインした劇場美術館の写真を見ていると、バルセロナにあるガウディの建築物と殆ど雰囲気が変っていないのにビックリした。
ラテン系特有のイタリアとは一寸違った偉大な芸術の発露が開花していて面白いが、ダリの精巧な絵画の中の背後の風景には、カタルーニァの海岸か荒涼とした大地が描かれていて色濃く風土が表現されているのも興味深い。
この素晴らしい描写力を駆使した精巧な筆致で描いた風景を背景にして、時計が溶けて壁にへばりついたり、片目だけが大きくぎょろりとむき出した体から怪獣のような手が大きく飛び出したり、とにかく、奇妙な物体を配置した幻想的な世界を描出している。
この口絵の絵も、「夜のメクラグモ――希望!」と言う題名だが、チェロを弾く裸婦のとろけた顔の上にメクラグモが描かれてその下に平和の敵アリが這いずり回っている。杖に支えられた大砲様の筒から馬が飛び出し、それらの光景を天使が見ている。何がどうなっているのか分からないが、いやに想像を掻き立てる。
何を描いているか理解されたいかと聞かれて、ダリは描いている本人さえ何を描いているのか分からないのだと答えている。モーツアルとのように神がダリの手を動かせて絵を描いていたのかも知れない。
面白かったのは、「ヴォルテールの見えない胸像」のダブルイメージの絵で、遠くから見るとヴォルテールの胸像に見えるが、近づいて見ると、五人の貴族達の群像に見える。
精巧に描かれた「リチャード3世の扮装をしたローレンス・オリビエ」は、左向きの肖像に正面向きの顔を半分重ねて描かれていたが、これはピカソの世界である。
また、色々の名画や彫刻のイメージを使って絵を描いていたことで、ミレーの晩鐘やマルガリータ王女を描くベラスケスなど面白かった。
マルガリータの絵については、ピカソも何度も習作を描いているが、やはり、スペイン画家にとってベラスケスは偉大なのであろう。
最愛の妻ガラの綺麗なドローイングが展示されていたが、二人は同一の一つの玉子から生まれ出たのだと言う位だからダリの幻想的な絵の構想の多くはガラに触発されて生まれて来たのであろう。
愛に耽溺したのかエロチックな幻想画もあるが、他人の妻だったガラに恋をして苦楽を共にしガラの死後は筆を絶ったと言うダリ、劇場美術館の壁面トップの装飾に玉子が並んでいるのが面白い。
このダリだが、映画に興味があり、ヒッチコックやディズニーとも接点があったとか、アメリカにも移り住み、多彩な活躍をし続けた芸術家である。
このダリ回顧展は、十分に楽しめる素晴らしい企画である。