熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

世界経済の新秩序と日本の復活・・・ビル・エモット

2006年11月14日 | 政治・経済・社会
   日本経済研究センターと日経の共催で「世界経済の新秩序と日本の復活」と言う国際シンポジュームが日経ホールで開催された。
   ビル・エモットの基調講演に続いて、ドミンゴ・シアゾン駐日フィリピン大使と香西泰氏が加わり、小島明氏の司会でパネル・ディスカッションが行われた。

   かなり面白いシンポジュームであったが、大方のメディア情報に近い結論なので、ビル・エモット氏の講演論旨について記述しておきたい。(メモ書きを纏めたので多少正確性を欠く。)

   現在のグローバル経済の特徴を概観して、その内どの要因が将来的に継続して行かないかを考えることによってこれからの経済状況を展望して見たい。

   現在のグローバル経済の特徴は、
   ① 世界経済が好況局面にあること。
   ② グローバル経済の成長の範囲が世界規模に拡大していること。
    特に、エマージング・マーケットの経済成長が顕著。
   ③ 石油、金属等一次産品の価格の高騰。
    エマージング・マーケットの好況と、工業製品価格のアップ。
   ④ グローバル競争の激化、新労働パワーの大規模参入。
   ⑤ CHINDIA現象。
   ⑥ アメリカ政治経済が悲観論者を惑わせたこと。
    ITバブルリセッション、9.11、経常収支の大幅赤字、住宅産業の悪化等発生したが、中国・オペック諸国からの資金が流入してGDP8%の経常赤字にも拘らず、破綻しなかった。

   このようなグローバル経済の現状のうち、
   まず、持続するかどうか怪しいのは、石油等のエネルギー、金属等の一次産品の価格高騰である。
   問題は、これらの価格が長期トレンドを大きく逸脱してあまりにも急速に高騰していることである。
   これらの価格は需給よりはカルテルで決定される傾向が強く、それに、最近長期間これらの生産関連投資が低水準に抑えられていて供給が追いつかずに価格が高騰している。
   生産拡大投資の効果が現れるのには時間がかかるが、供給増により価格が下落する。他の高騰しているコモディティ価格もダウンするであろう。
   
   アメリカの経済については、景気の減速傾向が強く、6ヶ月かそれ以降に、リセッションに入る可能性が強い。
   一次産品の価格ダウンによりBRIC's等の輸出国の貿易需要が減退して物価が下落して、デフレトレンドに入る心配がある。
   経済の悪化による保護主義の台頭、中印の混乱等マイナス要因も起こる。
   (アメリカ経済の先行きについての質問に対して)  
   ① 1985年と現在と比較して、現在失業率が低い。経常収支へのインパクト少ない。
   ② 議会が民主党になり、保護主義が台頭。中国元切り上げの要求。
    住宅部門の悪化で失業増加、6ヶ月後のリセッション。失業率が高ければ貿易問題拡大、小さければ不況1~2年遅れ。
   ③ 外交政策は、ライス国務長官就任以降単独主義は放棄されるなど変っているので殆ど変化なし。

   CHINDIA現象について。
   中国は、日本やアジアから原材料を輸入して加工しているだけの最終組立国で、GDPの70%を貿易収支が占めており、今後、サービスや公共部門等内需の拡充が必須である。
   深刻な環境問題、格差、豊かな人々の要求拡大、官僚の腐敗、民主主義化、地方等雇用の創出、ハイテクやアウトソーシングの拡大、投資の拡大等問題も多い。

   (中国の将来と言う質問に対して)台湾問題等政治経済不安定要因を抱えており、中国の破綻を心配している。
   一党独裁の共産党政府が、如何に国民の要求に上手く対応して政治的混乱を収拾できるかだが、失敗すれば破綻する。

   インドは、一人当たり国民所得が800ドルの農業国で、雇用の改善・創出のためにも、商業化の促進、インフラの整備、労働集約型産業の育成等が必要である。
   しかし、中国と違って、ハイテクとアウトソーシングで外貨を稼いでいる。
   何れにしろ、アメリカのリセッション、一次産品の価格下落等の影響を受けてCHINDIA現象の減速可能性はある。

   日本経済について、
   2年前から、楽観論者になり、エコノミストにもその旨記事を書いた。
   労働市場の改善、正規従業員等雇用の増大、賃金所得のアップ等を察知して家計等需要の拡大を予測したからである。
   現在は、そのトレンドが弱くなっているが、他の経済指標はプラスであり、経済状態が90年代とは違っており、スピードは遅いが上昇持続傾向なので日本経済の復活については心配していない。

   日本は、少子高齢化の人口動態的トレンドから考えれば、成長はゆっくりだが、労働力不足経済に入って行くであろう。
   これからの日本の経済社会については、日本の「選択」の問題である。将来、どのような経済社会にしたいのか、日本自身がどのような「選択」をするのかにかかっている。

   規制緩和・自由化を促進して競争を強化して、企業活動を活発にして経済の生産性を上げようとするのか。新規参入を活発にして新しい企業を育てようとするのか。内外を問わず、M&Aを積極的に許容して経済の活性化を図ろうとするのかどうか。
   競争力のない産業への保護政策を継続し続けて行くのか、あるいは、公取の力を強化して風通しをよくするのか。
   生産性の高い仕事を指向して賃金所得を上げようとするのか。不平等な富の分配をどうするのか。
   世界から孤立して遅れている大学を如何にレベルアップして行くのか、知財の育成保護をどうするのか。etc.の選択である。

   要するに、日本の経済社会の将来は、如何に自由化を促進し競争の強化を図って生産性を上げて行くかにかかっている。
   少子高齢化の為に労働市場が逼迫して賃金給与が上がり企業の業績を圧迫するが、消費の拡大もあり、生産性のアップがあれば相殺出来成長を持続できる。

   ビル・エモットの見解は、典型的なイギリス人の考え方で、経済社会の活性化と発展のためには、自由な市場経済原理に基づいて、外資であれなんであろうと活用する、ウインブルドン現象も厭わないとする意識的には内も外もない世界に門戸を開いていた大英帝国の伝統である。
   それに、社会福祉国家的な要素を併せ持ったリベラルな考え方がバックにあり、アメリカのエコノミストより日本人の考え方に近くて参考になる。
   日本の将来への日本人の考え方については、私自身、国内経済の比重があまりにも大きく豊かすぎて、グローバル、グローバルと言いながら、理解の埒外に有って、グローバリゼーションに一番遅れて馴染めない日本人の特質が良く現れていると思っている。
コメント
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