熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

知財保護軽視の中国・・・米ハイテク企業のジレンマ

2006年11月28日 | 政治・経済・社会
   フィッシュマンの「CHINA INC.」で提起されている重要な問題に、
   「貧しくてその対価を支払う余力がないのだが、先進国にキャッチアップするためには、その進んだハイテク技術やノウハウ、製品等が必須であるので、無断でコピーして活用せざるを得ない。」とする中国に対して、ハイテク外資企業はどのように対応して中国市場にアプローチすべきかと言うことがある。

   中国経済の発展は、国内のニセモノ業界に大きく依存しており、高価なデザイン、商標製品、ハイテク技術・ノウハウ、世界的人気を誇る娯楽製品、等々欲しいが自分達で作れないものをコピーして、ニセモノ業者が国民に手ごろな値段で商品を提供してきた。これが、中国経済発展の大きな起爆剤にもなっている。
   中国が市場経済に移行して発展してきたのは、農民達が政府の規制や法の抜け穴を見つけて、法規制を次から次へ覆した結果であって、中国では法律が災いをもたらし、法の裏をかく方法が分かれば国民の希望が湧くと言う歴史であった。

   中国政府としては、国民に日々の糧を与え、経済を発展させることが先で、先進国の要求する知財保護など差し迫ったものではない。
   たとえ中央政府が知財保護の重要性を認識して政策を立案し法律を制定しても、法の執行は地方政府であり、コピー商品の生産・販売が雇用を生み地方経済の活性化と発展を支えている以上、むしろ、規制・取締りより、直接又は間接的に関与していると言われている。

   問題は、急速に市場経済に取り込まれて発展して来たエマージング・マーケットは、ハイテクのノウハウや高度な製品に対して正当な対価を支払うべきとする先進国の市場原理、ビジネス慣行の埒外にあり、地財保護を筆頭とした先進国のビジネス・ルールを拒絶せざるを得ないと言う現状である。
   この問題は、エイズなど高度な薬品をブラジルなどの国が無断でコピーして安く売っている話や、ファイザーなどが無償で高価な薬品をアフリカに配布している話とも連動しており、民間企業が膨大な資金と時間を注ぎ込んで開発したが、その製品を最も必要としている国が貧しい発展途上国であったりして、知財を保護して対価を回収出来ないと言うジレンマである。
   この辺になると、ヒューマニズムやCSRの問題とも絡んでくるが、要するに、発展段階なり経済社会が同質な世界でのみ成立する知財保護のルールが、今日のグローバル経済社会では有効に作用しないと言う厳粛な事実を認識すべきであろう。

   さて、大変な被害を被っている筈のマイクロソフトの中国市場への対応であるが、中国政府に大変な譲歩をして自社の中国市場を守ろうとしている。
   中国政府に、オペレーティング・システムの秘密のソース・コードを公開しなければ、オープンソースのソフトウエアを政府関係の仕事に使用すると圧力をかけられてこれに屈服して、極秘であった最も重要なオフイススイートの詳細を明らかにした。
   中国その他の国から、これ以外の企業秘密も明らかにするように圧力をかけられて、マイクロソフトは、60にのぼる政府や国際機関に無償で使用許諾を与えている。
   あまりにも巨大な中国市場を、そして、世界の市場が、オープンソースのリナックスに席巻されることを恐れてのマイクロソフトの決断だが、リナックスの陰の威力は、もう一つの資本主義市場の良心とも言うべきカウンターベイリング・パワー(ガルブレイスの拮抗力)でもあろうか。

   結局、本来の価格では買えないので海賊版を使用するのが当たり前である中国で商売をしようとすれば、中国人が買える価格まで妥協して売るか市場を諦めるかしか選択の余地はない。
   例え知的財産の所有権侵害で勝訴しても、また、何でも真似をして作りだせる工業力のある中国では、新しいニセモノ業者が市場に参入して来るのが落ちである。

   もう一つのアメリカ企業モトローラの場合も、技術を一切さらけ出しながらも市場から退場出来ないでいるハイテク企業の中国市場での典型的な生き方である。
   中国は携帯電話メーカーにとって、世界で最も競争の熾烈な、しかも浮き沈みの激しい場所である。
   ところが、下請けの中国の納品メーカーがあまりにも大きくなり過ぎて、質の高い低価格品を供給するので、地元中国の極めて積極的な競争メーカーを出現させて今では40%のシェアを占めるまでになってしまった。
   もしモトローラが中国市場から撤退すれば、世界で最も無駄のない最も積極的な企業がのし上がって来てどう対処すれば良いのか分からなくなるので、更に中国への投資を拡大しているのだと言う。
   ホンダが、ニセモノバイクに耐えられなくなって当該現地会社と合弁して抱き込んだと言う話だが、これに近いかも知れない。
   あまりにも巨大過ぎて、かつ、日進月歩世界で最も急速に改革革新して発展している中国市場を無視出来ないグローバル・ハイテク企業の生きる道は、共存共栄しかないのかも知れない。
   例え松下のブラックボックス的なイノベイティブな誰にも真似が出来ない技術で対処しても、中国は、合弁を強いられてその技術を使って製造しようと思えば、その技術のノウハウ総てがパートナーとの共有になるような国なのである。
コメント
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