熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

相曽賢一朗のクロイツェル・ソナタ演奏

2006年11月15日 | クラシック音楽・オペラ
   昨夜、東京文化会館小ホールで、第10回相曽賢一朗ヴァイオリン・リサイタルが開かれたので出かけた。ピアノは、アルゼンチン生まれで欧米で活躍しているネルソン・ゲルナーであった。
   演目は、
   モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ変ロ長調KV454
   ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第8番Op.30-3
   エルンスト:夏の名残のバラ
   ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番Op.47”クロイツェル”

   相曽氏は、ロンドンに在住しヨーロッパで活躍しているヴァイオリニストだが、年に一度帰国してリサイタルを開いている。
   芸大の学生の時にアメリカに続いてロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック(現在は同校アソシエイトARAM)に留学して同校とロンドン大学で学位を取得し、そのままロンドンに在住して、演奏活動をしながら、アカデミーとバーミンガム音楽院で教鞭を執っている。
   便りによると、ソナタやコンチェルトのソロ以外に、コンマスをやったり、室内楽をやったり、ヨーロッパで伸び伸びと活躍しているとのこと。内田光子をロンドンのコンサート・ホールの客席で何度も見ていたが、良くも悪くも、実力のある日本人音楽家は、欧米で活動する方が生き生き活躍できるのかも知れない。

   毎年秋のリサイタルには欠かさずに出かけて相曽氏の演奏を聞いて9年になるのだが、ロンドンの学生音楽修行の頃から彼を知っているので、年々、大きくなって行くのを楽しみながら眺めている。

   長女のピアノの先生の紹介で、相曽氏が、アカデミー入学の為にロンドンに着いた時に、「適当な宿舎がないか」と電話を架けて来たのが最初の出会いである。
   自分で寄宿先を探す為に、何日か、キューガーデンの我が家に滞在して、新しいロンドンでの学生生活に入っていった。

   その後、色々な機会に我が家を訪れてくれて親しく付き合うことになった。
   娘の日本人学校の同級生や近所の生徒達の家族に集まって貰って、我が家で彼の演奏を交えたミニ・パーティを行ったことがあったが、その時集ってファンとなった婦人方が、今も毎年、秋の相曽リサイタル鑑賞を兼ねて上野でロンドン同窓会を続けている。
   音楽専攻で頑張っていたので、参考になると思って、ロイヤル・オペラの「フィでリオ」、マズア指揮のニューヨーク・フィル演奏会、ハンプトンコート宮殿でのホセ・カレーラス・リサイタル等々に誘って一緒に行ったこともあった。

   ロンドンに居た時、相曽氏は、ヴァイオリンで、宮城道雄の筝曲「春の海」の尺八パートをヴァイオリンで演奏してくれた。
   宮城道雄の琴、シュメーのヴァイオリンの素晴らしいレコードが残っているが、あのような正当派の演奏ではなくて、かすれ具合も正にそのものずばりで尺八の音色そっくりの演奏なのである。
   非常に器用なところがあって、今回も、ベートーヴェンの頃の演奏会は長時間で途中にサーカスなどがあったんだと言いながら、ヴァイオリンのサーカスとも言うべきエルンストの「夏の名残のバラ」を実に華麗に演奏した。

   相曽氏のコンサートの特徴は、型どおりの固い演奏会ではなく、誠実でユーモアのある温かい雰囲気のあるコンサートで、非常に簡潔でウイットのある演奏曲の解説などを語る。
   ロンドンに居た時も、あれだけ頑張って、ロイヤルアカデミーでもトップを通して走り抜け、段々イギリスのクラシック・サークルで重きを成して来ていたのに、立派なご両親に愛情一杯に慈しまれた育ちの良さであろうか、何時も非常に穏やかで優しく誠実そのものであった。

   私が相曽氏の演奏を聴いていて感動するのは、そのテクニックのみならず、素晴らしく美しい音色である。
   ヴァイオリンはプロなら誰が弾いても同じような音色がするんだ程度に思っていたのが、アムステルダムでバーンスティンがコンセルトヘヴォーから、シューベルトの「未完成」の演奏で紡ぎだした途轍もない天国からのような美しくて高貴なサウンドを聞いてから考えを改めた。
   デイビッド・オイストラッフ、レオニード・コーガン、アイザック・スターン等々を筆頭に、これまで随分、ヴァイオリニストのコンサートに通っているが、相曽氏のヴァイオリンの音色は、何時も感動的に美しいのである。

   何時もの演奏会では、あまり聴いたことのないプロ好みの曲目や難解なテクニックを駆使する曲目が多いのだが、今回の相曽リサイタルは、モーツアルトとベートーヴェンのソナタを選曲した。
   偶にはお客さんも相曽さんのクロイツェルやスプリングを聴きたいのだ、と以前にアンケートで書いて残したことがあったが、今回はそのクロイツェル・ソナタを聴くことが出来た。
   スターンやムッターのコンサートで聴いた記憶はあるが、今回の相曽氏のクロイツェル・ソナタは、緩急自在、実にダイナミックな朗々とした演奏で、何時もの素晴らしい美音が胸を打った。
   それに、ピアノのネルソン・ゲルナーが、火花を散らすような熱演で実に上手い。

   最近ではオペラの方に興味が移ってしまって、独奏会や室内楽のコンサートに出かけたり、CDなどを聴く事も少なくなってしまったが、久しぶりに良質なコンサートでベートーヴェンのソナタを聴いて、新譜が出たと言ってはレコード店に駆け込み、有名なピアニストやヴァイオリニストの演奏会だと言ってはコンサートに通っていた若かりし頃を思い出して懐かしくなった。
   

   
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