熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

日展を鑑賞・・・ヨーロッパの風景

2006年11月19日 | 展覧会・展示会
   土曜日に、上野の東京都美術館に出かけた所為もあってか、丁度併行して開催されていたエルミタージュ博覧会と重なって、秋の名物「日展」も大変な鑑賞客で溢れていた。
   昨年も出かけて行ったのだが、知人の絵の鑑賞が目的であったので日本画のコーナーだけ見て帰ってしまった。
   しかし、今回は、一通り全館回ってみて、やはり、日本美術界の実力と層の厚さにビックリして、後の予定があって2時間しか鑑賞できなかったが、満足して帰って来た。

   受賞作品などについては、何故、それが受賞なのか正直なところ、私自身の感性と大分違っているのであまり感慨はなかった。
   兎に角、日本画と洋画だけでも大変な点数の作品が展示されているのだから、直感的に素晴らしいと思った作品をじっくりと楽しむことにした。
   これとは違って、テーマとしては、海外の風景を描いた絵、歌舞伎や文楽など伝統芸術、京や奈良の風景、社寺や仏像の絵、花の絵特に椿、などを意識して見ていた。

   海外の風景画だが、ヨーロッパの風景が大半で、中国やタイなどがちらほらで、絵になる筈の南北アメリカやアフリカの風景が皆無であったこと、そして、やはり、海外で勉強する作者が多いのか洋画部門に海外の、特にヨーロッパの風景画が多かった。

   海外の風景画で特選に選ばれていたのは、洋画部門の佐藤裕治氏の「古城の村」であった。
   丘の上の廃墟となって崩れかけた古城を中心に、その丘の裾野に古城を囲んだように田舎の家並みを描いた絵で、やや上空からバードアイの視点で俯瞰した中々ムードのある褐色基調の素晴らしい作品である。
   スペインの風景をモチーフにしているようだが、スペインやイタリアの田舎を車で走っていると、丘の上に古城が突然現れることがある。
   それに、時間が止まったかのような錯覚を覚えさせるような古い集落が、下界から隔離されたかのようにそのまま残っている、そんな風景を切り取って絵に構成したのであろう。

   私が訪れた所で、はっきりここだと分かる絵が何点があったが、その一つは、日本画の村居志之氏の「ノルマンディーの雨」。
   やや青みがかったグレイ基調の画面にモン・サン・ミッシェルの全景を描いて、そこに直線的な雨を線描にした絵である。
   観光地のメッカではなく、くすんだ背景にどっかり大地に根ざした巡礼の聖地としての存在感は迫力十分である。

   もう一つは、イギリスのカンタベリーを描いた中西敦氏の「礼拝の朝」。
   メルセリー・ラーンから正門越しにカンタベリー大聖堂を遠望する風景で、雪に覆われた歩道をポケットに手を入れて大聖堂へ向かう人を点景に描た写真のような克明な絵である。
   このあたりは、パブなどがあって夜には観光客で賑わう繁華街だが静かな朝との対象が出ていて清々しい。
   英国国教会の主教座のあるカンタベリーなのである。

   ポルトガル・リスボンのユダヤ人街、ドイツの石畳や白壁のせまったスペインなどの路地裏の小径、ギリシャのパルテノンや遺跡、ヴェニス、教会の搭のある風景等々懐かしいヨーロッパの風景画が沢山展示されていて、思い出を反芻しながらムソルグスキーの展覧会の絵よろしく散策を楽しんだ。

   ところで、興味を引いたのは中国の切り立った谷に、伏せたコップのような形で聳え立つ岩山を描いた美しい石原進氏の「天志峰」。
   山肌に張り付いた松などの緑が鮮やかな岩山に二層の雲がたなびき、手前をくちばしだけが赤い青い鳥鳳凰が尾を引きながら横切って飛んでいる。
   左手角に、チェーンをつけた山道が描かれている芸の細やかさが現実との接点を感じさせて面白い。
   
   ところで、椿を描いた絵が3点ほどあった。
   2点は、京都の人が描いた白椿。
   面白かったのは、神奈川の新川美湖さんの「椿の道」。
   鬱蒼と茂った森の中の小道に鮮やかな椿の花を描いた絵である。
   絵の上段中央にぽっかりと明るく開いた森の入り口から、逆くの字形に小道が森の中に下っていて、その木の足止めのある小道の下段に3輪、上段に2輪、鮮やかな黄色い蘂を付けた真っ赤な薮椿の花が落ちて輝いている。
   暗い森の中に滲ませた鮮やかな落ち椿を意識的に強調した印象的な絵で、確かに、京都の古寺で見た椿はこんな感じであったと思い出した。
   名のあるような銘椿等は、独立して植えられていたり日の当たる所に植えられている場合が多い。しかし、蘂の先が黄色で白い、そして、真っ赤な花弁の平凡で典型的な薮椿の古木は鬱蒼とした森の中にひっそりと植えられていることが多く、落ち椿もひっそりと落ちているが、ドキッとするほどその美しさにビックリすることがある。

   本当は、優に一日かけて鑑賞すべきだと思いながら、彫刻や工芸美術、書などのセクションを駆け足で見て次の予定の為に会場を後にしてしまった。
   
コメント
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