イングランドの東サセックスの片田舎にある豪壮な領主の館の風情のある建物の一部が客席800余りの劇場となっており、毎年、5月から8月にかけてオペラフェスティバルが開かれていて、優れた企画と質の高い上演で、オペラファンを集めている。
私が何回か観に出かけたのは、1988年から92年にかけてであるから、古いオペラハウスで、今の新しい劇場は建設中であった。
問題は、この劇場のキャパシティが少なくて、席の取得権をメンバーが抑えているので、パトロンさえ思うように予約が取れず、普通では、余程のことがないかぎり、チケットが取得できないので、鑑賞の機会がない。
私の場合は、何人かの英国人の友人や出入りの会社からの招待で、毎年、1度は出かけることが出来た。
特に、一番親しかった大手のエンジニアリング会社の会長であったジムとマーゴ夫妻に招待されることが多かった。
先年、ピットに入っていたエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団のコンマスであった相曽賢一郎氏の両親が、グラインドボーンを訪れて、息子の晴れ姿を観ようと奮闘したがチケットが手に入らず涙を飲んだと語っていたが、1150に増設した新劇場でも、チケット取得は至難の業なのであろうと思う。
とにかく、メンバー制度を維持限定しして、特別に設営した文化芸術環境を享受しようというイギリス社会の一面を現していて興味深いのだが、幸い、私は、入会が難しいと言われるジェントルマン・クラブRACにも入会できたし、あのアスコット競馬にもモーニング・シルクハット姿で出かけたり、ホワイト・タイの正装で王族の晩餐会に出るなど、イギリス社会の奥深さの一面を垣間見ることが出来て、幸せだったのかも知れないと思っている。
ヨーロッパの夏は陽が長くて、遅い午後から、タキシードとイブニングドレスに正装した客が集まりだして、邸内の広い芝生の庭や手入れの行き届いた美しいイングリシュガーデンやクラシックなインテリアの美しい建物の中などで、シャンパングラスを傾けながら談笑して開演を待つ。
この公演の特色は、途中の休憩の時間が75分と長くて、特に、ピクニック・スタイルのディナーが有名で人気がある。
まだ、陽が中天に傾きかけた明るい夕刻6時頃なので、広い芝庭に、椅子やテーブルをセットしたり、カーペットやシートを敷いて席を占めたり、各自が思い思いのスタイルで、ピクニックよろしく、デイナ―タイムを楽しむことになる。
勿論、少し長編のオペラになると、はねるのは、深夜近くになるので、ロンドンに帰る頃には、日付が変っている。
私は、最初はリムジンを使ったが、次からは、イングランドの田舎を味わいたくて、自家用車で通ったのだが、このシーズンには、送り迎えの特別列車がロンドンから出ており、ヘリで通う客もいた。
自宅からの道程は100㎞くらいで、半分くらいはハイウェイだが、グラインドボーンに近づくと田舎道に入り、時には、一面に広がる菜の花畑や趣のある田園風景に感激して、途中で沈没したりする。
原生林を切り開いて何百年もかけて磨き上げた歴史のある美しい田園風景がイングランドの象徴であろうが、この草深いルイス地方の田舎には、まだまだ、コンスタブルの世界が残っていたのである。
一番最初の1988年には、建物の別棟の山小屋風の大きなレストランで食事を取った。
相客は、ベーカー教育大臣夫妻で、大臣とは文化や芸術の話になり、京都にこのグラインドボーンのような劇場を作ったら面白いと言われたので、大臣のご提案として文部省に伝えましょうかと言ったら、それは困ると言って手を振った。
奥方は、銀行の役員なので、英国経済の話になったのだが、私の経験では、英国では会食の場でも、結構程度の高い話題が出るので、たとえば、歌舞伎や紫式部などについても、それなりに語れないと恥をかく。
欧米人は、社交好きで、毎日のように夫婦連れで、観劇や会食、パーティなどに出て社交生活を楽しんでいるので、耳学問で蓄積した話題や知識など、縦横無尽に連発するのであり、話術の冴えが求められる。
ところで、私の場合には、ジムが好んでやっていた芝庭にシートを敷いてディナーを楽しむピクニックスタイルの方が多かったし、モネの草上の晩餐よろしく雰囲気を楽しむこの方が、グラインドボーンに来ているという満足感を味わわせてくれた。
イングランドでは、初夏の空気が限りなく澄んで、色とりどりの花が咲き乱れて、輝くように美しいバラの季節が一番快適で、このシーズンを通してのグラインドボーン祝祭オペラなのであるから楽しくないはずがない。
このグラインドボーン館は、広大な牧場に隣接しているので、HA-HA(芝生の庭と牧場の境界に深く彫り込んだ溝)の向こうに、羊や牛が草を食むのぞかな風景を展望でき、池畔の川面で群れ集う野鳥を楽しむことの出来る芝庭などが格好のピクニック場所で、ジムは、何時もここに場を占める。
食事などディナーに関する用意は、事前予約で事務局が準備してくれるのだが、それぞれに好みがあって特別メニューのオーダーも結構あるという。
ところが、何時も晴天で恵まれた日ばかりではなく、寒くて震え上がる日もあれば、雨に降られてテントに駆け込む日もあり、こんな時には運命の悪戯を託つ以外にない。
一度だけ、晴天だったが寒い日があって、アーキテクトのホワイト夫人がブラウスだけだったで、夫君がタキシードの上着を貸して青い顔をして耐えていたことがあった。
後述するが、ロンドンの郊外のケンウッドの野外劇場でのロイヤルオペラのコンサート形式のオペラでは、雨に降られて寒さに震え上がって早々に退散した苦い思い出もあって、極上の楽しみが瞬時に、吹っ飛ぶことがあって、運任せであるのが面白い。
そう思うと、アメリカのロビンフッドデルでのフィラデルフィア管弦楽団の野外コンサートでは全く取りこぼしがなく幸せであった。
私が何回か観に出かけたのは、1988年から92年にかけてであるから、古いオペラハウスで、今の新しい劇場は建設中であった。
問題は、この劇場のキャパシティが少なくて、席の取得権をメンバーが抑えているので、パトロンさえ思うように予約が取れず、普通では、余程のことがないかぎり、チケットが取得できないので、鑑賞の機会がない。
私の場合は、何人かの英国人の友人や出入りの会社からの招待で、毎年、1度は出かけることが出来た。
特に、一番親しかった大手のエンジニアリング会社の会長であったジムとマーゴ夫妻に招待されることが多かった。
先年、ピットに入っていたエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団のコンマスであった相曽賢一郎氏の両親が、グラインドボーンを訪れて、息子の晴れ姿を観ようと奮闘したがチケットが手に入らず涙を飲んだと語っていたが、1150に増設した新劇場でも、チケット取得は至難の業なのであろうと思う。
とにかく、メンバー制度を維持限定しして、特別に設営した文化芸術環境を享受しようというイギリス社会の一面を現していて興味深いのだが、幸い、私は、入会が難しいと言われるジェントルマン・クラブRACにも入会できたし、あのアスコット競馬にもモーニング・シルクハット姿で出かけたり、ホワイト・タイの正装で王族の晩餐会に出るなど、イギリス社会の奥深さの一面を垣間見ることが出来て、幸せだったのかも知れないと思っている。
ヨーロッパの夏は陽が長くて、遅い午後から、タキシードとイブニングドレスに正装した客が集まりだして、邸内の広い芝生の庭や手入れの行き届いた美しいイングリシュガーデンやクラシックなインテリアの美しい建物の中などで、シャンパングラスを傾けながら談笑して開演を待つ。
この公演の特色は、途中の休憩の時間が75分と長くて、特に、ピクニック・スタイルのディナーが有名で人気がある。
まだ、陽が中天に傾きかけた明るい夕刻6時頃なので、広い芝庭に、椅子やテーブルをセットしたり、カーペットやシートを敷いて席を占めたり、各自が思い思いのスタイルで、ピクニックよろしく、デイナ―タイムを楽しむことになる。
勿論、少し長編のオペラになると、はねるのは、深夜近くになるので、ロンドンに帰る頃には、日付が変っている。
私は、最初はリムジンを使ったが、次からは、イングランドの田舎を味わいたくて、自家用車で通ったのだが、このシーズンには、送り迎えの特別列車がロンドンから出ており、ヘリで通う客もいた。
自宅からの道程は100㎞くらいで、半分くらいはハイウェイだが、グラインドボーンに近づくと田舎道に入り、時には、一面に広がる菜の花畑や趣のある田園風景に感激して、途中で沈没したりする。
原生林を切り開いて何百年もかけて磨き上げた歴史のある美しい田園風景がイングランドの象徴であろうが、この草深いルイス地方の田舎には、まだまだ、コンスタブルの世界が残っていたのである。
一番最初の1988年には、建物の別棟の山小屋風の大きなレストランで食事を取った。
相客は、ベーカー教育大臣夫妻で、大臣とは文化や芸術の話になり、京都にこのグラインドボーンのような劇場を作ったら面白いと言われたので、大臣のご提案として文部省に伝えましょうかと言ったら、それは困ると言って手を振った。
奥方は、銀行の役員なので、英国経済の話になったのだが、私の経験では、英国では会食の場でも、結構程度の高い話題が出るので、たとえば、歌舞伎や紫式部などについても、それなりに語れないと恥をかく。
欧米人は、社交好きで、毎日のように夫婦連れで、観劇や会食、パーティなどに出て社交生活を楽しんでいるので、耳学問で蓄積した話題や知識など、縦横無尽に連発するのであり、話術の冴えが求められる。
ところで、私の場合には、ジムが好んでやっていた芝庭にシートを敷いてディナーを楽しむピクニックスタイルの方が多かったし、モネの草上の晩餐よろしく雰囲気を楽しむこの方が、グラインドボーンに来ているという満足感を味わわせてくれた。
イングランドでは、初夏の空気が限りなく澄んで、色とりどりの花が咲き乱れて、輝くように美しいバラの季節が一番快適で、このシーズンを通してのグラインドボーン祝祭オペラなのであるから楽しくないはずがない。
このグラインドボーン館は、広大な牧場に隣接しているので、HA-HA(芝生の庭と牧場の境界に深く彫り込んだ溝)の向こうに、羊や牛が草を食むのぞかな風景を展望でき、池畔の川面で群れ集う野鳥を楽しむことの出来る芝庭などが格好のピクニック場所で、ジムは、何時もここに場を占める。
食事などディナーに関する用意は、事前予約で事務局が準備してくれるのだが、それぞれに好みがあって特別メニューのオーダーも結構あるという。
ところが、何時も晴天で恵まれた日ばかりではなく、寒くて震え上がる日もあれば、雨に降られてテントに駆け込む日もあり、こんな時には運命の悪戯を託つ以外にない。
一度だけ、晴天だったが寒い日があって、アーキテクトのホワイト夫人がブラウスだけだったで、夫君がタキシードの上着を貸して青い顔をして耐えていたことがあった。
後述するが、ロンドンの郊外のケンウッドの野外劇場でのロイヤルオペラのコンサート形式のオペラでは、雨に降られて寒さに震え上がって早々に退散した苦い思い出もあって、極上の楽しみが瞬時に、吹っ飛ぶことがあって、運任せであるのが面白い。
そう思うと、アメリカのロビンフッドデルでのフィラデルフィア管弦楽団の野外コンサートでは全く取りこぼしがなく幸せであった。