熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

2.グラインドボーン音楽祭オペラの思い出(その2)

2020年11月24日 | 欧米クラシック漫歩
   客席800の旧劇場は、1934年創設と言うから、木造のこじんまりしたホールで、ウエストエンドのミュージカル劇場の雰囲気に似ており、勿論、中廊下などはなく、舞台も極めて小さくて、言うならば、金比羅の金丸座で歌舞伎を観ると言う感じに近いと言えようか。
   しかし、ピットには、ロイヤル・フィルが入り、歌手は人気上昇中の俊英が満を持して美声を競い、ベルナルド・ハイティンクが振ると言う豪華版で、公演の質は極めて高い。

   さて、最初に観たのは、ラヴェルのオペラ「スペインの時」と「子供と呪文」と言う初めて観る舞台であったが、元々、モーツアルトからスタートしたようであり、モーツアルト没後200年の年では、オール・モーツアルト・プロで、この年には、「フィガロの結婚」と「イドメネオ」を観る機会を得た。
   「イドメネオ」は、非常にシンプルな能舞台」のようなセットで、コスチュームも和風であった。イオランテは、野侍のようなラフな鎧を身につけており、イーリァやエレットラは、ギリシャ風にアレンジした和服を着て簪を指している。
   英国では、シェイクスピア劇を和風に演じた蜷川劇団の舞台の影響か、あるいは、浅利の演出と森の衣装で人気を博したミラノ・スカラ座の「蝶々夫人」の影響か、このイドメネオは、完全に日本の影響の強い振り付けながら、このようなシックな小劇場にはピッタリの舞台で興味深かった。

   天国のモーツアルトがどう考えるのか、私は二回観たのだが、日本を知る友は、洋の東西の文化の癒合にいたく感激していたが、よく知らぬ友は、日本との出会いと言っても半信半疑、しかし、二回とも、ヨーロッパ人の聴衆は拍手喝采であった。
   その前後に、イングリッシュ・ナショナル・オペラで、サリバンの「パシフィック・オーバチュア」を観る機会があった。
   これは、ペリーが黒船で来訪し開国を迫る頃の日本を主題としたオペラで、歌舞伎を真似たのか、歌手は全員男性で、振り付けも丁髷と着物で、結構面白かったが、似ても似つかない日本趣向の展開で、日本人から観れば全く奇天烈、違和感を感じなかったグラインドボーンのイデメネオとは大違いであった。
   ミュージカル「ライオン・キング」のジュリー・テイモアのように上手く日本の芸術を取り入れたり、先のMETでの「蝶々夫人」で、子供を米国流の3人遣いの手法で人形で登場させるなど、結構、日本のパーフォーマンス・アーツの手法やテクニックを活用して芸の深化を図る試みがなされていて興味深い。
   私見だが、「蝶々夫人」は随分各地のオペラハウスで観てきたが、やはり、東敦子や渡辺葉子の蝶々夫人が最高で、忘れ得ない思い出である。

   このグラインドボーンで観た他のオペラは、ストラヴィンスキーの「放蕩息子の一生」、ブリテンの「アルバート・ハリング」、ティペットの「ニューイヤー」など、ロイヤル・オペラなどの大劇場で観るのとは違った初めての舞台で、戸惑いを覚えながら、異次元のオペラ鑑賞の世界に浸っていた感じである。

   ところで、この新オペラハウスを設計したのが、アーキテクトのマイケル・ホプキンス。
   丁度、ロンドンのシティで、金融ビル改築の大プロジェクトで、アーキテクトとして使っていたので、工事施工が難しくて仕事が遅いと言う噂を聞いたのか、知人のジョル氏が電話をかけてきて、オーナーのクリスティ氏が心配しているのだが、大丈夫かと聞いてきた。
   サポート体制さえシッカリしておれば大丈夫だろうと、そこはそつなく応えておいた。
   その前に、ホプキンスの自宅を訪れた時に、作業机の上に世界のオペラハウスの平面図などが一面に広げられおり、オペラに趣味がなくよく知らないはずの彼だが、ロイヤル・オペラのために、ワーグナーのマイスタージンガーの第3幕のステージを設計した実績があると言うので、スプリングルなどの同僚が才を発揮しているのだろうと考えた。尤も、クリケットをしないしよく知らないホプキンスが、ロイヤル・クリケット・スタジアムの改装の設計コンペで優勝したと言うことだから、新グラインドボーン・オペラ・ハウスの設計には、オペラやオペラハウスの知識あるなしは関係ないのかもしれない。
   
   残念だったのは、招待すると言われながら、帰国の忙しさにかまけて、新グラインドボーンの建設現場を視察できずに終ってしまったこと、そして、帰国後、何度か、シーズンに、ジムから、グラインドボーン・オペラの招待を受けながら、渡英のタイミングが合わずに、鑑賞の機会を失ってしまったことである。

(追記)随分、グラインドボーン関係の写真を撮ったのだが、倉庫に入ってしまった写真を探すのが不可能で、口絵写真は、ウィキペディの写真を借用した。

   WPから、次のメールが入ったTrump administration informs Biden it is ready to begin the formal transition; Trump tweets that he recommended initial protocols
   名実ともに、バイデン政権の始動であり、大いに期待したい。
コメント
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