地味鉄庵

鉄道趣味の果てしなく深い森の中にひっそりと (?) 佇む庵のようなブログです。

中国鉄道時刻表第2号を読む・東風11形

2015-04-27 00:00:00 | 中国の鉄道


 先日日中首脳会談が開催されたとはいえ、中国をめぐるあれこれには依然として鬱陶しい情勢があり、とりわけ鉄道という点をめぐっては新幹線・都市鉄道輸出をめぐる熾烈な攻防などもあるほか、巷でウワサの某銀行にしても、リーマンショック以後の景気対策で一気に鉄道インフラを造ったところ、早くも生産設備・人員が余剰となってしまったため、いろいろな国から甘言で集めたカネをそんな中国戦略分野国有企業の救済目的で使いたいだけなのではないか……とつらつら思うものです。とはいえ単純に、膨大な鉄道網を日夜、寝台車や食堂車も付いた多種多様な長距離列車が行き交うことを考えれば、中国の鉄道はそれなりに非常に面白い存在であることは否めません。

 そんな中国の鉄道をめぐってはかねてから、鉄道省あらため鉄路総公司の子会社である中国鉄道出版社が全国版時刻表を発行し、さらに各地の鉄路局や鉄路公司が個別地域の時刻表を発行してきたわけですが、年々列車本数が増えて整理がつかなくなり見づらいという問題があったため、これを一気に打開するための秘策として、日本国内の鉄サークルである「中国鉄道時刻研究会」が《日本式》を売り物として昨年『中国鉄道時刻表』を発売、同人誌としては爆発的な売れ行きを記録したらしい……という話は記憶に新しいところです。まぁ要は、1980~2000年代の、まだ日本人を標的とした鬱陶しい話が全然無いか極めて少なかった時代に中国で鉄道の旅を楽しんだ世代=ヲッサンやヲ爺さんが、昔なつかし感情も抱きつつ大挙して購入したものと想像しています。
 以来約半年が経過し、その間には昨年末のダイヤ改正があったこともあり、このたび第二号が発売されたとのことですので、私も去る金曜日に神保町で買って参りました。本来であれば、予告された発売日であった22日にゲットしたく、夕方神保町の書泉に寄ったのですが、ブツ未だ来たらず……。まぁ致し方なく、品切れが起こりうる中ゲット出来ただけでも良しとしなければなりません。こういう有用かつ資料性が高い労作は今後も継続的に出ることが好ましいと思いますので、私は全然ノータッチの部外者ですが、勝手に宣伝させて頂きます (笑)。

 今号では冒頭に、編集及び中国における運転体系の都合上、「必ずしも《日本式》ではない(=完全な《日本式》とするのは止めた)」との重要な断り書きがあります。それは例えば、北京から草原を経由して西北の蘭州に抜ける伝統的路線である京包・包蘭線が、途中の寧夏・銀川界隈を境に分割され、北京~銀川間は銀川~宝鶏間(という新参者路線)と、銀川~蘭州間は太原~中衛間(という新参者路線)と一体化されて掲載されているという要領です(北京~包頭~蘭州ルートが好きな私は腰が抜けそうになりました)。このため、各頁の見出しからは路線名が消え、経由ルートのみが示されており、前号との違いが結構大きいためショックを受ける方も多いのかも知れません。それでも、その大変更を補うために、路線図に示されたエリア番号(全国をa~eに分ける)・ルート番号との対応は良く出来ていると思います。こういった、列車の大まかな流れに沿った誌面再編という点を除けば、同じルートを通る列車が概ね順序通りに示されるという《日本式》ではあるということで、前回のスタイルを概ね踏襲しているように思います。



 そして目を惹くのは、CNRの旅における「食」をめぐる巻頭特集でしょうか。まぁはっきり言って、今も昔もCNRの食堂車については高くてマズイという評価が多く(勿論例外もあり)、とりわけ食堂車が列車員の憩いの場に化けてしまっているため、うっかりメシ目的で足を踏み入れると睨まれるというイヤ過ぎる問題もあります。私がむかしバックパッカーとして散々CNRの長距離列車を利用したときはそれがイヤで(あと、長編成列車の混雑する車内をかき分けて食堂車に到達するのが面倒臭いという問題もあり)、食堂車の服務員がブリキの車販ガラガラカートにぶっかけ飯やぶっかけ饂飩入りの発泡スチロール容器をしこたま積んで売りに来るのを愛用していたのを思い出します。これとてまぁ美味くはないのですが、中国らしく温かいメシにありつけるのが長所であったと言えます。とはいえ、これとてもコストパフォーマンスが良いとは断言出来ないため、1990年代半ばに急速にカップラーメンが普及し始めると、あっという間に車内は濃厚なスープの臭気に満たされるようになったと記憶しています。熱湯はどうするのかって?……そりゃ~デッキの開水炉(サモワール)に汲みに行くも良し(緑皮車ではこれが石炭炊きであったため、車内は常時石炭臭い)、列車員がたまにデカい薬罐を持ってやって来るタイミングを狙うも良し(これらの熱湯サービスは無料というのが中国の特色)……こうしてメシを食らったあとは、蓋付きコップに茶葉を入れてガーッと熱湯を注ぎ、流れる風景を眺めながらチビリチビリと飲む……これが中国の長旅というものです。しかしまぁ今日ではエキナカも発達し、石炭臭い緑皮車もどんどん引退しているわけで、計画経済時代の名残も遠くなりにけりですな……。
 ちなみに、車販は車販で、客がヒマを持て余した頃合いを見計らって何でも売りに来るのですが、私が経験した中で一番笑ったのは……北京から旧熱河省のド田舎を経由して瀋陽・丹東に至る列車(この列車はスピード無視で実にシブくて良い)における「チャオシエン ヨウピィァオ~! (又は、チョソン ウピョともいう)」の呼び声 (^^;)。担当客務段の土地柄というヤツですな……。

 いっぽう肝心の列車面は、まぁ有り体に言ってCRHがまたドンドン増えている、というのが最大の変化でしょうが、とりわけ蘭新第二複線が完成し、新疆にCRHが到達するというトンデモな時代になったことが特筆されましょう(一応「客運専線」だそうですが、重量級の罐が引く客レも設定され、速度を落とす代わりに路盤を頑丈にしているあたり、その究極の目的は新疆での独立運動を鎮圧するために速やかに軍を送るためであると睨んでいます。甘粛・新疆間を直通する動車は毎日2~3往復のみという超過疎ぶりも、採算目当てで建設した鉄道ではないことを示しています。他に罐も走る「客運専線」といえば山東省にもありますが、こちらは明確に逼迫する貨客分離用と思われ)。そして、いずれ宝鶏~蘭州間の高速鉄道が開通すれば、北京からウルムチまで4000kmを走るCRHが出来るというわけで……要するに、これが習同志のいう「新シルクロード」の骨幹というヤツです。動車を使う層は最初からヒコーキを使うと思うわけで、それをさらにモスクワまで延ばすなんてどう考えても現代版の万里長城のようなものとしか思えないのですが、とにかく中国は貨客ともにこの構想に相当こだわっているらしいのも事実。
 最近とある会合で、中国から来たそれなりに偉い人が、「日本も是非、日本から中央アジアやロシア・ヨーロッパへの物資輸送にあたっては、近道である新疆ルートを使われたし」とアピールしていましたので、思わず「尖閣問題の嫌がらせで散々通関手続きを遅らせたお宅のボーダーを、何が楽しくて連雲港・阿拉山口と二度も通過せにゃぁならんのだ。ならば時間がかかってもシベリア鉄道経由の方がマシというものではないか……あほくさ」と思ったのですが、日本側の一人が機転を利かせて「まぁそれも良いのではないですか?」と、面子を立てつつ実はどうでも良いと言わんばかりの逃げ口上を述べてオシマイとなったのでした (笑)。
 あと、今後ネパールへ延ばしてインドを脅すために使うつもりのラサ~シガツェ鉄道・1日1往復も目を惹くところでしょう。他の地域・路線の様々な列車につきましては、時刻表の情報をどうぞ……といったところですが、強いて言えば、広州と南寧(広西)・貴陽(貴州)のあいだ、そして杭州から江西省を経て湖南省に至る区間にも高速鉄道が開業し、昔この一帯のド田舎をボロバスで(列車の切符が春節直後で全く手に入らないため……-_-;)命からがら縦断したことがある者としては隔世の感があります。

 話題は全く変わりまして、新たに設定された列車の中から「このスジを提案して引いたヤツは、CNR内部の鉄ヲタの中の鉄ヲタ」としか思えないものをいくつか。
 (1) 【特快 T301/304・T302/303】長春~瀋陽~通遼~集通線~フフホト~銀川~中衛~武威~ウルムチ南
 (2) 【快速 K1517/1520・K1518/1519】瀋陽北~通遼~集通線~フフホト~銀川~蘭州~西寧
 どちらも、東北と西北の長距離移動にあたり集通線を活用したというシロモノですが、途中はひたすら草原や砂漠を走り、鬱陶しい大都会での乗換を要さずして、満洲国をしのぶ東北と南モンゴルの草原、そしてチベットやウイグルといった地域を結ぶという点で、むかし中国の内陸をバックパッカーとしてウロウロしたことがある人ならば誰もが大喜びしそうな列車。
 (3) 【快速 K691/694・K692/693】フフホト~包頭~延安~新豊鎮(西安の東)~安康~小南海(重慶の西)~内江~昭通~昆明
 よくぞまぁ筋金入りのド田舎のニッチな路線ばかりを駆け抜けるものよ……しかも西安と重慶のすぐそばを通りながら通過してシカト!ということで、フフホト周辺と昆明のあいだを移動する際になるべく大都会に寄らずスムーズに移動出来るようにという配慮は滲み出ているのですが、一体そこまでの需要があるのか?と思えるニッチ列車。しかも途中通る場所はマニアックな景色の良さ。
 ※この【マニアックな新列車紹介】は、見つけ次第補筆してゆきます (笑)。

 というわけで、そんなCNRの画像として、当ブログ未収録の東風11型DL牽引シーンをアップしておきます。最近は電化網の更なる拡大やら何やらで、ネットで見かける旅客列車の牽引機が圧倒的に和諧ELシリーズになりつつあり、面白くも何ともないのですが、やっぱ改革開放以来の旅客列車における花形はといえば、東風4系列ならびに、そのDNAを正しく発展させた東風11型だろ……と思うのは私だけでしょうか? しかし今や、罐がどんどん和諧シリーズに変わっているのみならず、優美な25K系客車もどんどん新緑皮化が進んでいるという……。反腐敗キャンペーンとのからみで質実剛健な共産主義標準塗装に戻し人心を引き締めるということなのでしょうが、何かボタンの掛けどころが違うと思うわけです、ええ。