小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『凶鳥の如き忌むもの』三津田信三

2006年09月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
怪異譚を求め日本中を走る小説家・刀城言耶は瀬戸内に浮かぶ島に伝わる秘儀を取材に行く。
島の断崖絶壁の上に造られた拝殿で執り行われる<鳥人の儀>とはなにか?
18年前の儀式でただ一人生き残った巫女が、儀式に挑んだとき奇蹟が起きる。
これは大鳥様の力か? はたまた鳥女と呼ばれる化け物の仕業なのか?


~感想~
濃いい本である。
全体の3/5ほどを費やし、民俗学が語られる。さらに1/5で事件の検討がなされ、物語として動くのは残りの1/5程度。しかしそこで明かされるトンデモな真相を楽しむには、設定資料(?)である4/5をじっくりと読まなくてはいけない。
結論を先に言えば、ものすごく疲れるのだ。帯に「空前絶後の人間消失」とあるとおり、トンデモない仕掛けなのだが、そこに到るまでにぐったりとしてしまう。なんせ残り20ページまで進んでも謎は山積みされており、物語はそこまで地味~に鈍足で進んでいくのだ。たったひとつの真相から全ての謎が砕け散るのはお見事だが、その真相は序盤で実にあからさまな形で示されており、またあまりにも明白な伏線とあいまって「これかよ……」と脱力してしまったのも事実。
通常ならば手がかりと伏線の大胆な提示に舌を巻くところだが、そこに到るまでの道のりで疲労困憊している体からは、もはやため息しか漏れない。面白い仕掛けではあるのだが……。
また、あまりに詳細に事件を検討しすぎて「天井に貼りついていた」とか「ロープでぶら下がっていた」とかの、現実的なげんなりとする真相が推理されてしまうのも、個人的には落胆ぎみ。
トンデモなのはメイントリックだけ。しかしそのトリックだけでも一見の価値はある。マニアは体力を付け覚悟を決め、ぜひ本書に挑んで欲しい。


06.9.11
評価:★★☆ 5
コメント