※この文章は交流戦敗北の罰ゲームとして書きました。『世界の中心で、愛をさけぶ』を激しくネタバレしており、また筆者は『セカチュー』が嫌いなので未読の方・ファンの方は読まないでください
第一章
ヒロインいきなり死亡。
衝撃の幕開けだ。普通ならオチに持ってくる場面を冒頭に持ってきてしまった。ずいぶんとハードルを上げたものである。
第一章では主人公の朔太郎とヒロインのアキのなれそめが描かれます。学級委員に選ばれ、たまたま一緒になった二人。なんでもない出来事を積み重ね、心を通じ合わせていく様を描きます。
「このあいだ『ニュートン』で読んだんだけど、西暦二千年ごろに小惑星が地球に激突して、生態系がめちゃくちゃになってしまうんだってさ」
朔、それ『ニュートン』やない。『ムー』や!
ある日、朔は祖父から頼まれごとをします。それはなんと墓暴き。かつての恋人の墓から、遺骨を失敬するというのです。さすが「刑務所に入っていたことがある」とさらっと話すじいちゃん、やることが大きい。
用意してきた桐の小箱に、骨壺に収められた骨を、祖父はほんの少しだけつまんで移した。せっかく苦労してここまで来たんだから、遠慮せずにがっぽり持っていこうぜ、と言いたくなるくらい慎ましい量だった。
祖父も祖父なら孫も孫だ。
じいちゃんは「俺が死んだら恋人の骨と混ぜて、どこかに撒いて欲しい」と頼みます。当然ながら朔は疑問を抱きます。
「火葬に立ち会わなきゃ、骨をちょろまかせないよ」
「そういうときは、また今夜のように墓を暴けばいい」
前科二犯・確定。
骨をちょろまかしてきた朔は翌日、アキを呼び出します。
「用ってなに?」
(中略)
「今夜は二人でUFOを見るぞ」
朔の『ムー』購読は中三になっても続いてるようです。
そして二人はファーストキスを交わします。恋愛小説は数あれど、盗んできた遺骨を持ったままというシチュエーションは空前絶後ではなかろうか。
第二章
「キスでもしませんか」
「でも、それまでは愛に生きよう」
むずがゆい言葉を交わしながら絆を深めていく二人。しかしそれだけでは読者の心はつかめません。エロ要素投入です。朔は初体験をするための策を友人から「ビッグマックとポテトのL」という報酬で授けられます。
その友人を含めた三人で無人島に出かけ、友人だけが急用で帰り、二人切りになったところでやっちまえという姑息な作戦です。恋愛小説にあるまじき不純さが感じられます。
しかし朔はおじけづき、犯行は未遂に終わります。こうして『セカチュー』はR-12指定を受けず、幅広い読者を受け入れられることとなったのです。
第三章
アキ、突然ダウン。
なんの前ぶれもなく白血病にかかってしまいます。
朔は中学のころ、アキの気を引くためラジオに「白血病の友人のために曲をリクエストします」というハガキを送ったことを後悔します。あんなハガキを送ったから、神様が怒ったのだと。だから不謹慎ネタはやめとけと言ったのに。
病状が悪化していくアキの願いを叶えるため、朔は病院からアキを連れ出し、オーストラリアへと渡ることを決意します。
もちろん事は秘密裏に運ばねばなりません。しかしアキの荷物やパスポートは自宅にあります。
朔、アキ宅へ侵入。二犯目です。
主人公が二度も重犯罪に手を染める純愛小説も珍しい。
首尾よく病院を抜け、電車の中で二人は誕生日を祝います。
小さいながらも、ちゃんとしたデコレーションケーキだった。
(中略)
使い捨てライターで蝋燭に火をつけた。匂いに気づいて、近くの乗客が不審そうにこちらを振り向いた。
そりゃ電車の中だもんな。そして朔は衝撃の事実を知ります。
「朔ちゃん、わたしの名前、季節の秋だと思ってたの?」
(中略)
「わたしのアキは白亜紀の亜紀よ」
漢字すら知らないなんてどんな恋人関係だよ。
それにしても、
「白亜紀ってのはね、地質時代のなかでも、新しい動物や植物が出てきて栄えた時期なんですって。恐竜とかシダ植物とか。わたしもこれらの生物たちみたいに栄えますようにって、そういう願いを込めてつけられた名前なのよ」
そんな理由で亜紀と名づける親はたぶんお前の親くらいだ。
空港にたどりついたものの、無理がたたったアキは倒れてしまいます。「助けてください」です。どうでもいいが映画では絶叫してましたが、小説で読む限りは静かに呼びかけている気がします。「!」もついてないし。「叫んだ」じゃなくて「言った」だし。
身もフタもない言い方をすれば、この無茶な逃避行のせいでアキに限界が訪れます。
第四章
アキ、死にました。
「あの世ってあると思う? 好きな人とまた一緒になれるような世界がさ」
朔はまだ『ムー』を読んでいるようです。
朔はアキの両親とともに、遺骨を撒くためオーストラリアに向かいます。アキの父がガイドに尋ねる。
「ドリーミングってのが、わたしにはまだよくわからないんですがね」
(中略)
「ドリーミングには幾つかの意味があります」ガイドの男は答えた。
「一つはある部族の神話上の祖先のことです。この祖先が、動物のワラビーと彼らを創造したのです。彼らと動物のワラビーは、ともに始祖ワラビーの末裔となります」
(中略)
「トーテミズムってのは、そういうことなんだ」
ドリーミングってなんだ。トーテミズムってなんだ。会話が唐突すぎて意味が解りません。これはアキを亡くした朔の混沌とした心中を表しているんですね。違います。
第五章
アキの死から数年。朔は新しい恋人を伴い母校の中学校に行きます。
「ときどき自分でも、夢なのか現実なのかわからなくなることがある。過去の出来事が実際に起こったことなのかどうか。昔よく知っていた人でも、死んで長い時間が経つと、もともとそんな人はこの世にいなかったような気がしてくるんだ」
薄情だな、おい。
夢幻あつかいされたアキに合掌。
それにしても、新しい恋人というのも、
グラウンドの隅に目をやると、懸命に登り棒に挑戦している若い女の姿があった。スカートをはいた両脚で棒を挟み、左右の手を交互に手繰っては、少しずつ身体を上に持ち上げていく。
こんな女やだよ。
授業中に私語をして廊下に立たされたり、どうも作者の描写はステレオタイプである。などと批判したところで終了。
~~~感想~~~
1時間ちょいで読み終わりました。内容は外見同様に薄く、まるで目新しいところのない物語です。
中学生の初恋。プラトニックな関係。難病のヒロイン。死別。再出発。
言ってしまえば誰にでも書ける、あるいはとうの昔に誰かが書いた話に過ぎないのだ。
なんでこんなに流行ったかというと、柴咲コウが褒めたからかなあ。その柴咲からして今はどこへ消えたのか。流行ってこんなもんだよね。
アキが倒れるあたりにかけて急に筆力が上がり、作者の力のいれ具合がよく解ります。つーか前半、手を抜きすぎ。前半は上滑りしていた臭いセリフが、中盤以降は場面にぴたりぴたりとはまっていきます。
未読の方は、簡単に読めるし酷くはない出来なので、気が向いたら読んでみればいいのでは。いずれにしろ、声を大にして他人に勧められるような傑作にはほど遠い。宮部みゆきの『名もなき毒』を読んでいる最中にとりかかったのだが、あまりの筆力の差に宮部みゆきを改めて見直したくらい。読むなら『名もなき毒』の方を読むべし。あれは傑作です。
それにしても、平井堅の『瞳を閉じて』は、小説全体をそのまま圧縮して作り上げたのだなあと感心した。小説を読むのが苦手な方は、映画を観ればいいのではなかろうか。『瞳を閉じて』が流れる分、映画の方がいいかもしれない。
エアロスミスが主題歌だから『アルマゲドン』の方が『ディープインパクト』より面白い、みたいな感じで。
百姓さ~ん。こんなのでいいですか?
06.8.27
評価:★ 2
第一章
ヒロインいきなり死亡。
衝撃の幕開けだ。普通ならオチに持ってくる場面を冒頭に持ってきてしまった。ずいぶんとハードルを上げたものである。
第一章では主人公の朔太郎とヒロインのアキのなれそめが描かれます。学級委員に選ばれ、たまたま一緒になった二人。なんでもない出来事を積み重ね、心を通じ合わせていく様を描きます。
「このあいだ『ニュートン』で読んだんだけど、西暦二千年ごろに小惑星が地球に激突して、生態系がめちゃくちゃになってしまうんだってさ」
朔、それ『ニュートン』やない。『ムー』や!
ある日、朔は祖父から頼まれごとをします。それはなんと墓暴き。かつての恋人の墓から、遺骨を失敬するというのです。さすが「刑務所に入っていたことがある」とさらっと話すじいちゃん、やることが大きい。
用意してきた桐の小箱に、骨壺に収められた骨を、祖父はほんの少しだけつまんで移した。せっかく苦労してここまで来たんだから、遠慮せずにがっぽり持っていこうぜ、と言いたくなるくらい慎ましい量だった。
祖父も祖父なら孫も孫だ。
じいちゃんは「俺が死んだら恋人の骨と混ぜて、どこかに撒いて欲しい」と頼みます。当然ながら朔は疑問を抱きます。
「火葬に立ち会わなきゃ、骨をちょろまかせないよ」
「そういうときは、また今夜のように墓を暴けばいい」
前科二犯・確定。
骨をちょろまかしてきた朔は翌日、アキを呼び出します。
「用ってなに?」
(中略)
「今夜は二人でUFOを見るぞ」
朔の『ムー』購読は中三になっても続いてるようです。
そして二人はファーストキスを交わします。恋愛小説は数あれど、盗んできた遺骨を持ったままというシチュエーションは空前絶後ではなかろうか。
第二章
「キスでもしませんか」
「でも、それまでは愛に生きよう」
むずがゆい言葉を交わしながら絆を深めていく二人。しかしそれだけでは読者の心はつかめません。エロ要素投入です。朔は初体験をするための策を友人から「ビッグマックとポテトのL」という報酬で授けられます。
その友人を含めた三人で無人島に出かけ、友人だけが急用で帰り、二人切りになったところでやっちまえという姑息な作戦です。恋愛小説にあるまじき不純さが感じられます。
しかし朔はおじけづき、犯行は未遂に終わります。こうして『セカチュー』はR-12指定を受けず、幅広い読者を受け入れられることとなったのです。
第三章
アキ、突然ダウン。
なんの前ぶれもなく白血病にかかってしまいます。
朔は中学のころ、アキの気を引くためラジオに「白血病の友人のために曲をリクエストします」というハガキを送ったことを後悔します。あんなハガキを送ったから、神様が怒ったのだと。だから不謹慎ネタはやめとけと言ったのに。
病状が悪化していくアキの願いを叶えるため、朔は病院からアキを連れ出し、オーストラリアへと渡ることを決意します。
もちろん事は秘密裏に運ばねばなりません。しかしアキの荷物やパスポートは自宅にあります。
朔、アキ宅へ侵入。二犯目です。
主人公が二度も重犯罪に手を染める純愛小説も珍しい。
首尾よく病院を抜け、電車の中で二人は誕生日を祝います。
小さいながらも、ちゃんとしたデコレーションケーキだった。
(中略)
使い捨てライターで蝋燭に火をつけた。匂いに気づいて、近くの乗客が不審そうにこちらを振り向いた。
そりゃ電車の中だもんな。そして朔は衝撃の事実を知ります。
「朔ちゃん、わたしの名前、季節の秋だと思ってたの?」
(中略)
「わたしのアキは白亜紀の亜紀よ」
漢字すら知らないなんてどんな恋人関係だよ。
それにしても、
「白亜紀ってのはね、地質時代のなかでも、新しい動物や植物が出てきて栄えた時期なんですって。恐竜とかシダ植物とか。わたしもこれらの生物たちみたいに栄えますようにって、そういう願いを込めてつけられた名前なのよ」
そんな理由で亜紀と名づける親はたぶんお前の親くらいだ。
空港にたどりついたものの、無理がたたったアキは倒れてしまいます。「助けてください」です。どうでもいいが映画では絶叫してましたが、小説で読む限りは静かに呼びかけている気がします。「!」もついてないし。「叫んだ」じゃなくて「言った」だし。
身もフタもない言い方をすれば、この無茶な逃避行のせいでアキに限界が訪れます。
第四章
アキ、死にました。
「あの世ってあると思う? 好きな人とまた一緒になれるような世界がさ」
朔はまだ『ムー』を読んでいるようです。
朔はアキの両親とともに、遺骨を撒くためオーストラリアに向かいます。アキの父がガイドに尋ねる。
「ドリーミングってのが、わたしにはまだよくわからないんですがね」
(中略)
「ドリーミングには幾つかの意味があります」ガイドの男は答えた。
「一つはある部族の神話上の祖先のことです。この祖先が、動物のワラビーと彼らを創造したのです。彼らと動物のワラビーは、ともに始祖ワラビーの末裔となります」
(中略)
「トーテミズムってのは、そういうことなんだ」
ドリーミングってなんだ。トーテミズムってなんだ。会話が唐突すぎて意味が解りません。これはアキを亡くした朔の混沌とした心中を表しているんですね。違います。
第五章
アキの死から数年。朔は新しい恋人を伴い母校の中学校に行きます。
「ときどき自分でも、夢なのか現実なのかわからなくなることがある。過去の出来事が実際に起こったことなのかどうか。昔よく知っていた人でも、死んで長い時間が経つと、もともとそんな人はこの世にいなかったような気がしてくるんだ」
薄情だな、おい。
夢幻あつかいされたアキに合掌。
それにしても、新しい恋人というのも、
グラウンドの隅に目をやると、懸命に登り棒に挑戦している若い女の姿があった。スカートをはいた両脚で棒を挟み、左右の手を交互に手繰っては、少しずつ身体を上に持ち上げていく。
こんな女やだよ。
授業中に私語をして廊下に立たされたり、どうも作者の描写はステレオタイプである。などと批判したところで終了。
~~~感想~~~
1時間ちょいで読み終わりました。内容は外見同様に薄く、まるで目新しいところのない物語です。
中学生の初恋。プラトニックな関係。難病のヒロイン。死別。再出発。
言ってしまえば誰にでも書ける、あるいはとうの昔に誰かが書いた話に過ぎないのだ。
なんでこんなに流行ったかというと、柴咲コウが褒めたからかなあ。その柴咲からして今はどこへ消えたのか。流行ってこんなもんだよね。
アキが倒れるあたりにかけて急に筆力が上がり、作者の力のいれ具合がよく解ります。つーか前半、手を抜きすぎ。前半は上滑りしていた臭いセリフが、中盤以降は場面にぴたりぴたりとはまっていきます。
未読の方は、簡単に読めるし酷くはない出来なので、気が向いたら読んでみればいいのでは。いずれにしろ、声を大にして他人に勧められるような傑作にはほど遠い。宮部みゆきの『名もなき毒』を読んでいる最中にとりかかったのだが、あまりの筆力の差に宮部みゆきを改めて見直したくらい。読むなら『名もなき毒』の方を読むべし。あれは傑作です。
それにしても、平井堅の『瞳を閉じて』は、小説全体をそのまま圧縮して作り上げたのだなあと感心した。小説を読むのが苦手な方は、映画を観ればいいのではなかろうか。『瞳を閉じて』が流れる分、映画の方がいいかもしれない。
エアロスミスが主題歌だから『アルマゲドン』の方が『ディープインパクト』より面白い、みたいな感じで。
百姓さ~ん。こんなのでいいですか?
06.8.27
評価:★ 2