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ミステリ感想-『骸の爪』道尾秀介

2006年09月19日 | ミステリ感想
~あらすじ~
取材のため、滋賀県の仏所・瑞祥房を訪れたホラー作家の道尾は、深夜の工房で怪異に見舞われる。
笑う観音。不気味な囁き。動く仏像。そして頭から血を流す仏。
東京に戻った彼は、霊現象探求所の友人・真備の元を訪れた。そして明かされる20年前の秘密と、仏師の連続失踪事件の真相とは?


~感想~
現時点での今年度最高傑作。
一部では京極夏彦を彷彿させるとささやかれるが、それも納得。しかし京極になぞらえられるのは衒学やウンチクの嵐ではなく、超常現象抜きで語られる、まぎれもない怪異と奇想。現実離れした能力や霊魂を持ち出さなくとも、怪異は描けるのだ。
次々と起こる不可解な現象はあますところなく解かれ、隠された伏線や真相は残らず回収される。しかしそれでもなお怪異は厳然として心に残る。このあたり言葉では表しづらいが、初期の京極夏彦を思いださせてくれる。だが京極と異なるのは、平易な文体と肩の力の抜けた会話で物語を進めること。中盤を過ぎても死体の一つも出てこない、それどころか「今なにが進行しているのか全く読めない」物語をここまで読ませる筆力はすばらしい。
解決にはじっくりと筆を費やし、ひとつひとつ丁寧に丹念に、からまった謎を解きほぐし、意外な犯人と望外の仕掛けを明かし、さらに全てが終わったと一息ついたところで最後の逆転。まったくどうして「ホラーサスペンス大賞」で特別賞を獲りデビューした作家が、こんな頭のてっぺんからつま先まで本格ミステリな物語を描けるのか、不思議でならない。
新進気鋭のホラー作家のシリーズ第二作、などという看板に騙されるなかれ。ここに極上のミステリがある。


06.9.17
評価:★★★★★ 10
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