小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『恋霊館事件』谺健二

2007年08月18日 | ミステリ感想
~収録作品~
五匹の猫
仮設の街の幽霊
紙の家
四本脚の魔物
ヒエロニムスの罠
恋霊館事件
仮設の街の犯罪

前作『未明の悪夢』から、そして震災からのちの神戸を描く連作短編集。


~感想~
重い。重厚という言葉では表しきれないほどに重い物語。
被災者ではない身からすると、ふと別世界の出来事のように思えてしまうような壊れた世界は、震災を真正面から描く唯一のミステリ作家として、まさに氏の独壇場である。
震災さえなければ決して起こることのなかった事件、動機は(やはり不謹慎な表現でないことを祈るのだが)非常に面白く、谺作品でしか味わえないものである。
トリックよりも動機に比重が置かれているが、その動機だけでこれだけ読ませてくれる。登場人物も血が通い、本を閉じてもまだ生き続けているような現実感がある、そんななにもかも破壊しつくした震災から生まれた稀有の作家。
震災を終わらせない作品を今後もつづっていってほしい。


07.8.18
評価:★★★★ 8
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