小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『沈底魚』曽根圭介

2007年08月26日 | ミステリ感想
~あらすじ~
大物の沈底魚が、日本に潜っている。亡命中国外交官による衝撃情報。流出した国家機密。「眠れるスパイ」は実在するのか。公安刑事たちの極秘捜査が始まった! 乱歩賞史上、もっともスリリングな公安ミステリー、堂々登場!
第53回江戸川乱歩賞受賞作。
※帯より転載


~感想~
退屈さという点では今までに読んだ本の中でも屈指。抑えた筆致といえば聞こえはいいが、地味な物語が淡々と語られるだけなので、盛り上がりも緩急もなにもない。
登場人物もよく言えば現実的、悪く言えば無個性で、魅力に乏しい。昨今の乱歩賞は専門知識に薄くミステリ味をまぶした作品が目立つが、今作はミステリ味が薄いを通り越して見当たらない。トリックはなく、後出しジャンケンのように「実は●●でした」と真相が明かされるだけで、推理をさせる余地は全くない。読者が推理をする余地がないだけではなく、語り手も一介の刑事に過ぎずただ状況に流されるだけ。語り手は最後の最後に逆襲を試みはするが、それも無個性で平凡な一刑事になぜそんな切り札が、と首をかしげたくなるような都合のよすぎる展開で腑に落ちない。
また内容とは関係ないが誤植が目に余った。べつに校正しながら読んでいないのに、
神経に触る→障る
自案→事案
など目につき、P164にいたっては、

 私は立ち上がってその背中を追い、後ろから襟を持って引き倒した。五味はすぐに起きて殴りかかってくる。
 私は立ち上がり、後ろから五味の後襟をつかんで引き倒した。五味はすぐに起きて殴りかかってきた。


と、推敲する前後の文が並んでいる始末。『邪魅の雫』の名前の誤りといいなにをやってるんだ講談社。
選評を見ても手放しで絶賛している選者は皆無。というか受賞作だから控えたのかもしれないが、選評自体が妙に少ない。
これを受賞させるくらいなら、今年は受賞作なしでもよかったのではないか……と思わせる凡作であった。


07.8.26
評価:なし 0
コメント