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ミステリ感想-『GOTH』乙一

2014年08月12日 | ミステリ感想
  


~収録作品とあらすじ~
「私にも、その表情のつくりかたを教えてくれる?」黒ずくめで他人を寄せ付けない雰囲気の彼女―森野夜は僕の「人を殺す側」の本性を見抜いていた。
死に心惹かれる僕と彼女の前に次々と現れる猟奇的な犯人たち。それは暗黒面に落ちた彼らと落ちそうな僕らの物語。


暗黒系
森野が拾った連続猟奇殺人犯の手帳をもとに、僕らは未発見の第三の犠牲者を探しに行く。
その後、犠牲者の服装を真似し始めた森野が行方をくらませ――。


近所で飼い犬が誘拐される事件が頻発。
死体を発見する特殊技能を持つ妹が河原で見つけた「それ」を見た僕は犯人を待ち伏せする。

記憶
寝不足に悩まされる森野。首に紐を巻き付けるとよく寝られると言う彼女とともに理想の紐を探しへ。
紐にまつわる彼女の幼い日の記憶とは。

リストカット事件
老若男女を問わず手首を切り持ち去るリストカット事件。
その犯人の正体を確信した僕はある行動に出る。


人を生き埋めにする衝動に駆られる男。
彼が第二の標的に定めたのは黒く長い髪を持つ彼女だった。


語るもはばかられる無惨な方法で殺された姉。
私の前に現れた犯人を名乗る少年は、姉の声が録音されたテープを渡す。

2002年本格ミステリ大賞、このミス2位、文春7位、本ミス5位


~感想~
↓主にプロット面でややネタバレ注意↓
作者が文庫版のあとがきで「犯人や主人公の彼らは人間ではなく妖怪だと考えてください」と言うように、金田一少年やコナンばりの頻度で次々現れる猟奇的な犯人たちは、初野晴の傑作「1/2の騎士」を思い出させるが「1/2の騎士」のマドカたちとは違い、「GOTH」の彼らは犯人と対決などしない。
結果的に犯行を暴くことはあっても、彼らはそもそもが犯人側の人間であり、共感はしても反発はしない。(もっとも彼らの片方は巻き込まれるだけだし、回を重ねるごとにただの不思議ちゃんへと近づいているのだが)

そんな厨二病を高二までこじらせている彼らの香ばしい言動を軸に物語は描かれ、目新しいトリックやミスディレクションは見当たらない。作者は「ラノベ読者にミステリの魅力を伝えたい」と志したそうだが、初歩の初歩くらいのトリックばかりで実のところ乙一は本格ミステリを大して読んでいなさそうな気配も濃い。
伏線の張り方や忍ばせ方、トリックの仕掛け方や解決へと至るロジックがただただそつないだけで、文章もとにかく読みやすいが別段上手いわけではなく(媒体がラノベだからだろうが)語彙も非常に少ない。
これだけ列挙すれば地雷確定のようだが、読んでいる間ずっとその初歩トリックに騙され驚かされ、そつなさに感心することしきりという奇妙な体験をした。
本格ミステリ大賞に輝いたのは相手に恵まれた感もあるし(※同時受賞がオイディプス事件。候補作がマレー鉄道の謎と聯愁殺)、候補に上がったのも第一回の受賞作に「壺中の天国」を選ぶような尖り気味の賞だからだろうが、それでもこれは「尋常ではないそつの無さ」、ただそれ一本だけを武器に全てをねじ伏せた類まれな傑作と評して構うまい。

こんなことを言えるほど、というかそもそも乙一作品を他に一作しか読んでいないが、乙一以外の誰が書いても失敗作になる題材だと思う。
だから(邦画に対する完全な偏見だし、もちろん観ていないが)映画版は死ぬほど酷いことになってるんだろうなあ。


14.8.11
評価:★★★★☆ 9
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