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ミステリ感想-『密室蒐集家』大山誠一郎

2015年11月28日 | ミステリ感想
~収録作品とあらすじ~
夜の学校に忘れ物を探しに行った少女は、音楽教師が射殺される現場を目にする。しかし現場は密室で中に犯人はいなかった……柳の園
不良に絡まれた少年と少女を助けた刑事。2ヶ月後、張り込み中に彼らの遺体を発見するも、現場は他ならぬ自分の目により密室と化していた……少年と少女の密室
元カレと言い争いをするさなか、窓の外を落ちて行った女。しかし上階の部屋はチェーンで密閉されていた……死者はなぜ落ちる
警察に即座に見破られた陳腐な密室トリック。しかしトリックは解けても容疑者は三人から絞れず……理由ありの密室
自殺未遂で倒れた佳也子は女医に助けられる。しかし眠っている間に女医は殺され、雪の上に足跡は彼女の物しか残っていなかった……佳也子の屋根に雪ふりつむ

13年本格ミステリ大賞、12年本ミス2位


~感想~
密室物ばかりを集めた短編集で、しかも探偵役はただ謎を解くためだけに現れる装置の如きその名もズバリ密室蒐集家。
密室の不可能犯罪とその解明だけに注力した、トリックが駄目なら共倒れとなる両刃の剣の設定だが、ピタゴラスイッチな機械トリックや、そこに死角があることをわかる読者は世界中探してもいませんよな目線トリックはほぼ廃し、心理と論理に重点を置いた傑作揃いである。

……が、間違いなく傑作に違いないものの不満は多々ある。最たるものは雑きわまりない伏線で、特に二編目の「少年と少女の密室」は伏線があまりにも雑すぎて浮きに浮いてしまい誰の目にも一目瞭然で、そこからするすると全ての謎が解けてしまう。
また偶然に偶然が重なりすぎるのも難点で、それにより奇跡的に不可解な状況が出来上がるのは喜ばしいが、だからといって「佳也子の屋根に雪ふりつむ」は十数個の偶然が大雪のように積み重なった結果に、頭良すぎる犯人が臨機応変すぎる計画を上乗せするもので、いくらなんでもやりすぎではと思えてしまう。
だがただでさえ密室という限定された状況、数少ない登場人物の中から常に意外な犯人を論理的に導き出し、作中に描かれた情報のほとんどがロジックの材料や伏線として回収されていく無駄のなさは見事という他ない。
そもそもがサンジェルマン伯爵のような超常的能力を持った探偵役が跋扈するシリーズなのだから、こまけぇことはいいんだよ的に深く考えずに読むほうがいいのだろう。

なお文庫版では論理に瑕疵が指摘されていた「柳の園」を加筆修正しているそうなので、読むならばそちらをおすすめする。


15.11.15
評価:★★★☆ 7
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