~あらすじ~
亡き妹夫婦が遺した失語症の甥と借金を抱え困窮した香川葉子は、職安で出会った石川希美に住み込みの家政婦の仕事を紹介される。
さる大企業のオーナーでもある大学教授と、その跡取り息子らに暖かく見守られ、甥の達也にも好影響がうかがえ、葉子の暮らしは平穏を取り戻しつつあったが……。
2017年日本推理作家協会賞
~感想~
傑作。第一章では葉子の暮らす1985年と、現在に当たる2015年のパートが交互に描かれ、現代パートでは過去パートが不穏な結末に終わったことが暗示され、一気に物語に引き込まれる。
第二章ではさらに過去にさかのぼり、日本の暗部とでも呼ぶべき、まさに苦海に沈んだような日々が容赦ない筆致で語られる。
そして第三章では再び現代に戻り――と頻繁に時代が前後するが、終始安定した確かな筆力に支えられ、状況の把握に苦労することや、大勢出て来る人物の判別に困ることはない。
あるトリックが仕掛けられているものの、大方の読者は途中で気づいてしまうだろうが心配無用。中盤であっさりとネタを割るし、以降は結末へと向けて収斂していく物語に、ある効果的な彩りを与えるための仕掛けであり、見抜いてしまっても落胆させられることはない。
せっかく仕掛けたトリックをメインに据えず見せ球に使うあたりは、そもそも怪談作家としてデビューした作者ならではの感性かと思わせるが、実はそれだけに留まらず、日本推理作家協会賞に選ばれたのも納得の、読者に膝を打たせずにはいられない、とある真相も最後には浮かび上がるのだからたまらない。
これまで怪談作家として活動してきながら本作では怪異はほぼ無く、極論すればトリックが無くとも十分に読ませる内容で、作者のさらなる可能性をこれ以上ない形で見せつけた傑作である。
俗な話をすると何かのきっかけさえあれば爆発的に売れたり映像化されるのは疑いない。
すでに大きな賞を獲っているが昨年11月に刊行されたため、実はこのミスのランキング対象でダークホースに当たる。個人的好みから8点としたものの、2017シーズンに読んだ作品の中では最もこのミス1位にふさわしいと思う。
目立った対抗馬もいないことだし、ぜひ上位に入って欲しいし入るべきであり、願わくば上位ランクインを機にもっと広く読まれることを祈りたい。
17.11.30
評価:★★★★ 8
亡き妹夫婦が遺した失語症の甥と借金を抱え困窮した香川葉子は、職安で出会った石川希美に住み込みの家政婦の仕事を紹介される。
さる大企業のオーナーでもある大学教授と、その跡取り息子らに暖かく見守られ、甥の達也にも好影響がうかがえ、葉子の暮らしは平穏を取り戻しつつあったが……。
2017年日本推理作家協会賞
~感想~
傑作。第一章では葉子の暮らす1985年と、現在に当たる2015年のパートが交互に描かれ、現代パートでは過去パートが不穏な結末に終わったことが暗示され、一気に物語に引き込まれる。
第二章ではさらに過去にさかのぼり、日本の暗部とでも呼ぶべき、まさに苦海に沈んだような日々が容赦ない筆致で語られる。
そして第三章では再び現代に戻り――と頻繁に時代が前後するが、終始安定した確かな筆力に支えられ、状況の把握に苦労することや、大勢出て来る人物の判別に困ることはない。
あるトリックが仕掛けられているものの、大方の読者は途中で気づいてしまうだろうが心配無用。中盤であっさりとネタを割るし、以降は結末へと向けて収斂していく物語に、ある効果的な彩りを与えるための仕掛けであり、見抜いてしまっても落胆させられることはない。
せっかく仕掛けたトリックをメインに据えず見せ球に使うあたりは、そもそも怪談作家としてデビューした作者ならではの感性かと思わせるが、実はそれだけに留まらず、日本推理作家協会賞に選ばれたのも納得の、読者に膝を打たせずにはいられない、とある真相も最後には浮かび上がるのだからたまらない。
これまで怪談作家として活動してきながら本作では怪異はほぼ無く、極論すればトリックが無くとも十分に読ませる内容で、作者のさらなる可能性をこれ以上ない形で見せつけた傑作である。
俗な話をすると何かのきっかけさえあれば爆発的に売れたり映像化されるのは疑いない。
すでに大きな賞を獲っているが昨年11月に刊行されたため、実はこのミスのランキング対象でダークホースに当たる。個人的好みから8点としたものの、2017シーズンに読んだ作品の中では最もこのミス1位にふさわしいと思う。
目立った対抗馬もいないことだし、ぜひ上位に入って欲しいし入るべきであり、願わくば上位ランクインを機にもっと広く読まれることを祈りたい。
17.11.30
評価:★★★★ 8