2017年このミス15位
~感想~
単行本未収録作品を集めた全集の第一巻。
なんといっても未完の遺稿「白樺荘事件」と、その原型である短めの長編「白の恐怖」を収録したのが最大の売りで、多数収録されたショートショートや、探偵小説史上に残るんじゃないかというほど簡単な推理クイズも物珍しい。
簡単に触れていくと、冒頭の「白の恐怖」がなかなか秀逸な雪の山荘物で、犯人こそ丸わかりなものの、大胆なトリックやテンポ良く起こる事件は大いに楽しめるだろう。
ショートショートは本当にあっさり風味ながらも、なにがしかのトリックを配し、質はともかく数はあるので当たり外れもさほど気にならず、どんどん読み進めて行ける。
笑ったのが読者への挑戦を付けた3編で、ミステリ史上最もシンプルかもしれないトリック(しかも答えみたいなヒント付き)の「青いネッカチーフ」を皮切りに、20人中3人しか正解できなかったのがとても信じられないラジオドラマ「お年玉を探しましょう」、さらに超露骨なヒントというか答えそのものがほとんど書かれた穴埋め形式なのに、6430人中39人しか正解していない「海彦山彦」と、いずれも仰天するほどの低難易度。
いやマジで何をどうしたら「海彦山彦」の正解率が0.6%になっちゃうの!? と不思議でならなかったが、もしかして一字一句間違いなく正解文と一致してる回答だけ正解にしてる…? それなら9割の読者が犯人を苗字ではなく名前で回答してるはずなので納得だが。
そして遺稿「白樺荘事件」は単に「白の恐怖」を水増ししただけではない意欲作で、最晩年でもいささかも衰えないどころか磨きの掛かった軽快な描写はもちろん、急に弁護士の助手が出てきて即いなくなったりと未完成らしく混乱しており、普段は見られない創作過程が実に面白い。
肝心の事件の方も、前提条件がいくつも崩れて「白の恐怖」のトリックが成立しなくなってしまう驚きの展開で、はたしてここからどうなって行くのか、永遠にわからなくなってしまったのが実に惜しい。
またボーナストラックとしてオカルト趣味のエッセイ(?)も2編あり、鮎川哲也のこれまで見られなかった様々な魅力の詰まった貴重な一冊である。
全くの余談だが編者の日下三蔵はツイッターでホームラン級の馬鹿に、他人の作品の寄生虫のように蔑まれていたが、本作を読むだけでも編者の仕事の深さ・難しさはわかるし、出版をしぶる作者の説得も行っており、その労力は測り知れないんだよなぁ。
20.2.17
評価:★★★☆ 7
~感想~
単行本未収録作品を集めた全集の第一巻。
なんといっても未完の遺稿「白樺荘事件」と、その原型である短めの長編「白の恐怖」を収録したのが最大の売りで、多数収録されたショートショートや、探偵小説史上に残るんじゃないかというほど簡単な推理クイズも物珍しい。
簡単に触れていくと、冒頭の「白の恐怖」がなかなか秀逸な雪の山荘物で、犯人こそ丸わかりなものの、大胆なトリックやテンポ良く起こる事件は大いに楽しめるだろう。
ショートショートは本当にあっさり風味ながらも、なにがしかのトリックを配し、質はともかく数はあるので当たり外れもさほど気にならず、どんどん読み進めて行ける。
笑ったのが読者への挑戦を付けた3編で、ミステリ史上最もシンプルかもしれないトリック(しかも答えみたいなヒント付き)の「青いネッカチーフ」を皮切りに、20人中3人しか正解できなかったのがとても信じられないラジオドラマ「お年玉を探しましょう」、さらに超露骨なヒントというか答えそのものがほとんど書かれた穴埋め形式なのに、6430人中39人しか正解していない「海彦山彦」と、いずれも仰天するほどの低難易度。
いやマジで何をどうしたら「海彦山彦」の正解率が0.6%になっちゃうの!? と不思議でならなかったが、もしかして一字一句間違いなく正解文と一致してる回答だけ正解にしてる…? それなら9割の読者が犯人を苗字ではなく名前で回答してるはずなので納得だが。
そして遺稿「白樺荘事件」は単に「白の恐怖」を水増ししただけではない意欲作で、最晩年でもいささかも衰えないどころか磨きの掛かった軽快な描写はもちろん、急に弁護士の助手が出てきて即いなくなったりと未完成らしく混乱しており、普段は見られない創作過程が実に面白い。
肝心の事件の方も、前提条件がいくつも崩れて「白の恐怖」のトリックが成立しなくなってしまう驚きの展開で、はたしてここからどうなって行くのか、永遠にわからなくなってしまったのが実に惜しい。
またボーナストラックとしてオカルト趣味のエッセイ(?)も2編あり、鮎川哲也のこれまで見られなかった様々な魅力の詰まった貴重な一冊である。
全くの余談だが編者の日下三蔵はツイッターでホームラン級の馬鹿に、他人の作品の寄生虫のように蔑まれていたが、本作を読むだけでも編者の仕事の深さ・難しさはわかるし、出版をしぶる作者の説得も行っており、その労力は測り知れないんだよなぁ。
20.2.17
評価:★★★☆ 7