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ミステリ感想-『殺人都市川崎』浦賀和宏

2020年06月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
川崎市民に恐れられる伝説的殺人鬼・奈良邦彦。長い沈黙を破り再び現れた奈良邦彦は大鉈で無差別殺人を繰り返す。親しい人を次々と殺される赤星と、赤星の元カノの愛の運命も奈良邦彦によって狂わされる。


~感想~
2月に急逝した作者が亡くなる数日前に校正を終えたという正真正銘の遺作。
自分と同姓同名の登場人物を自虐的にいじり倒してきた作者が、とうとう出身地の川崎に矛先を向けた。向けんな。
作中の川崎は殺人鬼が普通に暴れまわり、市民の誰もが川崎からの脱北(脱北?)を願いながらも叶うことなく川崎に生まれ、生き、死んでいく無情の都市になっている。なるな。
赤星と愛、2つの視点が交互に入れ替わり、勘の鋭い読者ならひょっとすると早めにとある仕掛けに気づいてしまうかもしれないが心配ご無用。真相とオチには絶対にたどり着けない。たどり着けるわけがない。読み終えたら本を投げたくなるかもしれないが、絶対に予測不能のオチが待ち受けている。
こんなオチなのに解説によると作者は本作のシリーズ化を目論んでいたそうだ。目論むな。
だが実現していれば桑原銀次郎は確実に奈良邦彦に片腕くらいは斬り飛ばされていたはずで、つくづく惜しまれる。
また安藤直樹シリーズの第2シーズンと銘打たれた萩原重化学工業シリーズはあと1作で完結の予定だったそうで、それを10年も放っておいて川崎をシリーズ化しようとしていた作者に我々は戦慄を禁じえない。
1から10まで混じりっけなしのいかにも浦賀和宏らしい遺作である。


20.6.11
評価:★★★ 6
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