小金沢ライブラリー

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ミステリ感想-『グレイヴディッガー』高野和明

2007年08月11日 | ミステリ感想
~あらすじ~
改心した悪党・八神は、骨髄ドナーとなって白血病患者の命を救おうとしていた。
だが移植を目前にして連続猟奇殺人事件が発生、巻き込まれた八神は自分と患者、二人分の命をかけ逃走を開始した。
八神を追跡する謎の一団、そして殺戮者・墓掘人(グレイヴディッガー)の正体は?


~感想~
これまた傑作。リーダビリティーが高いとはこの作品のためにあるような言葉である。さすがは映像畑の作家だけあり、映像として脳裡に描きやすい、映像として見てみたい場面が次々と飛び出す。
続々と明かされる真相や新たに浮かび上がる謎、息もつかせぬ展開はまさにクライマックスの連発。絶体絶命の山場と思われる場面が何度も訪れ、長さを全く感じさせない。
主人公の八神も悪党らしく、逃走するためには手段を選ばず、単なる小市民の逃走劇とは一線を画す。八神の逃走パートだけではなく、謎を追う刑事たちの追跡パートも考え抜かれており、後半に2つの線が交錯する段にはページをめくる手が止まらない。
デビュー作と比べまるで話題になっていないが、これは隠れた傑作エンタテインメント。前作を読んだ方もまだの方もぜひ手に取ってほしい。


07.8.1
評価:★★★★☆ 9
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ミステリ感想-『氷菓』米澤穂信

2007年08月08日 | ミステリ感想
~あらすじ~
何事にも積極的に関わらない省エネ高校生・折木奉太郎。しかし姉の命令で入部させられた古典部で、次から次へとささやかな謎が彼に襲い(?)かかる。


~感想~
鬼太郎ブックカバー目当てで購入した二冊目。しかしさすがは米澤穂信、ただでさえ安い値段をさらにお得に感じさせる、贅沢な一冊でした。
連作短編集のような形式ながら、前半部分の数々の謎は、語り手・折木の推理のキレを見せるための序奏パートといったところ。
クライマックスでは四者四様の推理の果てに、パッチワークのようにそれぞれの手がかりをつなぎ合わせ、一つの真相を導き出す。
しかしそれはたった一言で突き崩され、裏に隠された真実が明るみに出て、謎めいたタイトルの(そして文集の名の)意味が知らされるや、単なる日常の謎ミステリに留まらない、青春小説としての姿も浮かび上がる。とどめに最後の最後に現れる、あの人物の意図するところも、またいい。
中編程度の分量で一気に読めるが、ページ数以上の満足を得られること請け合い。これぞまさしく夏の一冊、でしょう。


07.8.7
評価:★★★☆ 7
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ミステリ感想-『神話の島』久綱さざれ

2007年08月03日 | ミステリ感想
~あらすじ~
高校生の布津美涼は幼い頃、両親を新興宗教に奪われた。その両親の死後、涼は自分に妹がいたことを知らされる。
涼は両親の死んだ、妹が暮らす御乃呂島へ向かうが、そこで彼を待っていたのは、記紀神話が濃密な影を落とす島で進行する疫病の恐怖と連続怪死事件だった。


~感想~
まさかの探偵神降臨。

ミステリというよりも伝奇やサバイバルといったほうがしっくりくる。読了に丸ひと月かかってしまったほどとにかく、いわゆるリーダビリティというものが低い。事件に目に見える謎はなく、疫病に苦しむのは華のない中年男性、会話のほとんどは方言だし、背景に描かれるイザナギイザナミなどの記紀神話もただの背景にとどまった。邑(というか島)の雰囲気作りは成功しているが、それが楽しさにはつながっていない。
そして終盤、「賢い」くらいしかキャラのなかった探偵役が突如として、探偵神・九十九十九になってしまったところは失笑するしかない。
伝奇、ミステリ、サバイバル、どっちつかずの凡作。僕の口には合わなかった。


07.8.2
評価:★ 2
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