左欄に紹介した本の書評だが、100ページほど読んだところだ。文章はよくない。わかりにくい。原著者に責任があるのか。訳者に責任があるのか。おそらく原著者の責任が大きいのだろう。航空オタクの弁護士だというが、ノンフィクション作者としては手慣れていない。
この塩谷という翻訳者はゴルフのハウツーものばかり訳している人らしい。このへんにも問題があるのかな。
ま、内容が斬新だから、紹介は引っ込めないが。英文のタイトルは「Preemptive Strike」すなわち「先制攻撃」である。アメリカは日本の真珠湾攻撃の数年前から重爆撃機とパイロット教官、軍事顧問をチャイナ軍(シャンカイシェク)に送り込んで、シナ本土から日本を爆撃する計画があったという「史実」を紹介している。
念のために言うと、当時アメリカは日本とは中立関係にあった。それをほおかぶりして蒋介石のマークのついたアメリカの爆撃機で日本を先制奇襲攻撃しようという計画である。これは当時のソ連が日ソ不可侵条約を一方的に破って昭和二十年に満州、カラフト、千島列島を侵略したのと軌を一にする国際条約違反の裏切り行為である。
つまり、アメリカの傭兵がチャイナ国民党軍をよそおって、日本本土を爆撃、襲うというものだ。
この傭兵をフライング・タイガーというのだが、このなれのはては数年前まで日本に民間貨物航空会社として乗り入れていた。フライング・タイガーというとおどろおどろしいイメージの付きまとうCIAのような秘密テロ行為と破壊工作をもっぱらにする暗黒集団という印象をもっていたものだが(どうもわたしも古いね)、その興味もあって書店で見つけて購入したわけだ。
読みさし書評、その一、つづく
そうそう、日本の出版社は日経新聞出版社というんだね。これも意外だった。産経新聞なら「らしい」んだけどね。もっとも、日経は12月8日に日米交渉を担当した野村大使の昭和天皇への言上書(報告書)を紹介していたが、これも日経新聞だからおやとおもったね。こんなくだりがある。
「米国政府は終始東亜の現実を無視し、その抱懐する空疎なる独善的理念を固執し、これを帝国に強要」(イラン、イラクに対するブッシュみたいだね)、また「国交断絶または戦争状態となることは国務長官も予期しており、陸海軍に警告していた」、そして「大統領はじめ帝国が不意打ちをあえてせりと言うは自己弁護にすぎぬ」などなど。
+ 百四、五十ページあたりまで読んだんだけどメリハリのない記述でどうもすっきりしない。巻末に年表があるからそれを最初に頭に入れるのがいいのかもしれない。
アメリカの援助で蒋介石が空軍を作って日本に対抗したいというのは満州事変のすぐあとかららしい。1935年にはアメリカに軍事援助の働きかけを始めている。アメリカ空軍のパイロットで冷や飯を食っている連中を高給でシナに誘っている。
中立関係にあった日本に宣戦を布告しないまま、アメリカがチャイナを使って本腰を入れて実質的な戦争を仕掛けようと策略をめぐらし始めたのは1940年らしい。
1940年の12月8日にはホワイトハウスで大統領が計画の検討をしている。これがちょうど真珠湾攻撃の1年前というのも妙な気がする。もちろんアメリカ東部時間だろうから一日ずれてはいるのだが。
1941年に入ると国民にも本当の意図を隠して、蒋介石に武器、パイロット、航空機を供与できる法律を作っている。
そして大量の戦闘機、爆撃機、アメリカ軍パイロットの供与(アメリカ国外でチャイナ本土に設立された民間会社と雇用契約を結ぶ形にして法律をすり抜ける)を開始している。
これに対して日本はどうか、1941年の1月26日になってようやく山本連合艦隊司令長官は真珠湾攻撃の研究を命じている。
アメリカは1941年7月31日対日先制攻撃計画を秘密裏に承認している。
日米交渉は並行して行われていたが、アメリカが真珠湾攻撃後、日本は一方で交渉をしながらうらで攻撃の準備をしていたと非難しているが、この経緯をみるとそんなことが言えた義理かということになる。
1941年2月には東京にあるアメリカ大使館員は日本の都市の建物は燃えやすく、隣家との間が狭く密集しているので焼夷弾を使えば簡単に火の海に出来ると報告して、空爆目標の資料を本国に送っている。日本ではようやく真珠湾の軍事施設に限定した計画を検討し始めたばかりである。
アメリカやチャイナは最初から都市に住む民間人の大量殺傷を目的としていたのである。
++ 本書で利用されている原資料はすでにアメリカで公表開示されているものという。日本人研究者も今後積極的に研究してほしい。あわせて日本側の資料もさらに発掘するような努力を期待したい。勝者の書いた歴史もそろそろ本腰を入れて見直さなければならない。
NHK篤姫の怪我の功名で明治維新勝者の書いた歴史にも別の角度から光が当てられたわけだからね。