先週放送された、NHK特集の「ランドラッシュ」は現実を無視した、商業主義あるいは世界分業論なるものの、非現実的な農業論に基づくものであった。放送は、2050年には人口が90億人になって、食料が不足する。そのために世界各国は、大型農業が出来るような土地を買い漁っている。日本は遅れているというのである。
とりわけ、後半には韓国にも出しぬかれたのは、国の農業生産への姿勢がなっていないからだと、ほぼ結論付けていた。製作者の意図は、貧しいが土地が広いところに行って、今から農地を買い占めておかなければならないというものである。すでに世界各国は動いていると、多くの事例を映していた。
土地を買い占められた国が、これからも買ってくれた国へ永続的に食料を作らせて、送り続ける補償は何もない。それらの国も、人口増加や社会不安や政治的な動向も起きるのは、これまでの歴史が物語っている。
この番組で、最も欠けていたのは日本の現状と過去の分析である。1970年代まで日本は、コメを1600万トン生産していた。これは現在のほぼ倍である。埼玉県と同じ面積の土地を、休耕地にしてしまっている現実をNHKは知らないのであろうか。
日本は家畜向けにトウモロコシを1600万トン輸入している。先進国はどの国もほぼ同様に、家畜のための穀物を輸入するか生産して大量に与えている。先進国が消費する穀物の、ほぼ半量を家畜が食べている。世界的に見ても、20億トン生産されている穀物のうち、36%が家畜に与えられているのである。
ストックフォルム国際水研究所の試算では、均等に人間に食料が当たられたとすれば、1日当たり4600キロカロリーにもなるとのことである。収穫後のロスで600キロカロリー、家畜に与えることで1200キロカロリー、運送や販売のロスで800キロカロリーを失っているとのことである。結果、2200キロカロリーになっているとのことである。
しかもこれは、均等に行きわたってのことである。世界の食糧事情は、均等に与えることで解決される。すなわち貧困と、それを引き起こす搾取や戦争などの暴力が、9億人もの飢餓人口を産んでいるのである。格差というようなやさしい言葉ではない。
農地を先進国や穀物メジャーに買い占められることは、さらなる貧困を産むことになる。NHKの放送は、それらの現状分析もないままに、商社的な視点で早く土地を海外に買い求めなければ、日本の食糧事情はさらに悪化すると結んでいた。
番組は何のために作られてたかは、判然としないが徒に国民の不安を煽るだけのものになっていたといえる。