和辻哲郎全集9。「倫理」について考えながら、和辻は、こんなことを書いている。
〈間・仲〉は生ける動的な間であり、従って自由な創造を意味する。
この「自由な創造」ということばを読みながら、私は、そこにベルグソンとの共通性を感じる。「生きる」とは「自由な創造」をすることである。
和辻は「日本語」にこだわって、ことばの「意味」をおいかけているが、きょう読んだ部分では「存在」、「存」と「在」の区別が刺戟的である。「存する」「在る」は、ともに「ある」という意味でつかっているが、そのつかい方は微妙に違う。
「存」の反対のことばは「失」であり、それは時間的な意味をもつ。「生存」ということばの反対のことばは「忘失」である。「生存」とは主体的な行動をすること(創造すること)である。その「創造」には「自己自身」と「もの」を含む。
一方「在」の反対のことばは「去」であり、場所的な意味をもつ。「不在」とは「ある場所に人がいない」ということであり、それはつねに「社会的」な場所とかかわりをもつ。
あるコスタリカ人(私は彼のもとで半年間スペイン語を勉強した)が、和辻の「風土」を読み、「日本人論だ」と言ったが、和辻は、人間を空間と時間とにおいてとらえている。人間の空間性と時間性は、人間の風土性、歴史性としてあらわれてくる。だから「風土」で和辻が書いているのは「日本人論である」というのは、確かにその通りだと思う。日本人は、日本の風土のなかで、どんなふうに日本人を「創造」してきたか。
「存在」に似たことばに「有る」「ある」がある。「有る」は「所有」ということばがあるように「有(も)つ」ということでもある。ひとが己自身を有つ、「存」は自覚的に自分自身をもつことである。
だから「心は把持すればあり、捨つればなし」というような言い方も成り立つ。
これは、誰のことばだったか。
私は「こころは存在しない」と考えている。で、その場合、その「心」と呼ばれているものに私は何をあてはめるか。「ことば」あてはめる。「ことば」は確かにある。私は、それを書いているし、読んでいる。
「こころは存在しない」と書くことは、一種の矛盾だが、つまり「存在しない」ならそれを「ことば」にすることはできないのだから。私は「方便」として「こころ」ということばをつかっていることになる。「こころ」のかわりに、目や手や足がある。腹もある。性器もある。それは、いわゆる「こころ」と同じように、自分の意思で動かすことができることもあるが、意思では制御できないこともある。このときの「制御不能」の状態を、すべて「ことば」にすることができれば、とてもおもしろいだろう。「ことばの持続」として展開できれば、とてもおもしろいだろう。そのとき「創造」されるのは、「文学」か「哲学」か「心理学」かわからないが。
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