詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(86)

2024-03-15 21:42:33 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「艶やかな日、声のホラ貝……」の最終連、その終わりから二行目。

わが愛するものはすべて絶えず再生し、

 この「すべて」は二連目で繰り返されている「ギリシャ」のことである。なぜ、「すべて」と書くのか。「すべて」が破壊されたからである。だから「すべて」と書かずにはいられない。そこには強い祈りがこめられている。「絶えず」も同じである。破壊されても、破壊されても、そのつど再生する。
 そういう「意味」とは別に。
 私は「わが愛する」の「わが」の表記に、ふいに胸をつかれた。「わが」に似たことばは、この詩では「私」が出てくる。「男」が出てくる。それから「我が手」「我が空」のように漢字で「我が」と書かれた部分がある。
 また、「わが」とは別の「きみ」ということばもある。
 たぶん、この「きみ」が「わが」に含まれている。つまり「わが」とひらがなで書くとき、そこには「われわれ」という響きがある。「われ」が愛し、「きみ」が愛するもの「すべて」というとき、それは「われわれすべて」ということになる。
 漢字で書かれていた「我が」が「わが」に変わった瞬間、世界が解き放たれ広がったように、私は感じたのだ。「わが愛するもの」の直前の行が「我が空は」であり、漢字とひらがなが並んでいることも、その印象を強くし、さらに最終行が再び「わが愛するものはすべて」と繰り返されることが、その印象をさらに強める。
 中井は、ふつうのひとなら統一してしまう表記をわざと不統一にすることで、ことばのニュアンスを深めていく。
 中井の耳は鋭いが、同じように目も鋭い。中井は、「文字を見ると色が見える」と語っていたが、見えるのは色だけではないのだろう。

 

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