谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(45)(創元社、2018年02月10日発行)
「音楽の時間」の「時間」とは何だろうか。
ここには三つの「時間」が書かれている。「未来」と「太古」と、ことばになっていないが「いま」。「生まれたばかり」が「いま」を「強調」している。
未来-いま(現在)-過去(太古)は、一本の線上に書き表わすことが多いが、実際の「時間」のすぎ方(意識の仕方)は、一本の線上をまっすぐに進むというわけにはいかない。
シューベルトは「いま」から「未来」の子どもを想像し、その「未来」から「いま」を見つめなおしている。そこに単なる「過去」ではなく「太古」という「時間」が書かれている。未来から見たいま(過去)よりも、さらに過去だから「太古」なのか。未来を「いま」と呼ぶとき、「いま」は「過去」になり、「過去」は「太古」になるということか。
でも、そうではない。未来-いま-過去-太古というような「線上」で時間を割り振ってしまうと、「時間」のあいだを行き来する動きがなくなってしまう。
シューベルトは「時間」を自在に行き来している。
ピアノをつかって「旋律」を生み出す、いま。
未来の子どもになって野を見る、いま。
未来の子どもになって旋律を聴く、いま。
旋律を聴きながら、この旋律がいつ生まれたのか、考える、いま。
「ここ」にあるのは「いま」だけであり、未来も太古も「考え」のなかにあらわれてくる「時間」であり、それは「呼び方」に過ぎない。「ある」のは「いま」という時間だけ。
そして「いま」しかないのだとしたら「未来」も「過去」も故障に過ぎないのだとしたら、最後の一行は、
と読み直すこともできるのではないだろうか。
少なくとも、シューベルトにとって旋律は「太古から存在していた」というよりも「未来から」やってきたの方が近いと思う。まだ存在していないもの(存在したことのないもの)が、どこからともなくやってきた。「未知(未来)」からやってきたからこそ、「未来の子ども」はどう聞くかということが気になる。シューベルトにとって、旋律が「太古」から存在していたものとして認識されるなら、「太古の子ども」がどう聞くかが気になるはずだ。「太古の子ども」は旋律が「未来からやってきたかのように」聞くのではないか、と想像するはずだ。
で。
こんなふうに感じたことを全部ことばにしようとすると、「未来」と「太古」が交錯する。どちらも「いま」とつながっていて、「未来」と呼ぶか、「過去」と呼ぶかは、何を考えるかによって決まるだけになる。
「音楽の時間」は「音楽という時間」であり、「音楽」を「時間」で言うならば、どう言い表わせるかを考えた詩(考えさせる詩)と言えるかもしれない。
*
「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
「音楽の時間」の「時間」とは何だろうか。
鍵盤の上の手を休めて
シューベルトは未来の子どもの眼で
暮れかかる野に目をこらす
子どもよ 君は聞くだろうかこれを
この生まれたばかりの旋律を
太古から存在していたかのように
ここには三つの「時間」が書かれている。「未来」と「太古」と、ことばになっていないが「いま」。「生まれたばかり」が「いま」を「強調」している。
未来-いま(現在)-過去(太古)は、一本の線上に書き表わすことが多いが、実際の「時間」のすぎ方(意識の仕方)は、一本の線上をまっすぐに進むというわけにはいかない。
シューベルトは「いま」から「未来」の子どもを想像し、その「未来」から「いま」を見つめなおしている。そこに単なる「過去」ではなく「太古」という「時間」が書かれている。未来から見たいま(過去)よりも、さらに過去だから「太古」なのか。未来を「いま」と呼ぶとき、「いま」は「過去」になり、「過去」は「太古」になるということか。
でも、そうではない。未来-いま-過去-太古というような「線上」で時間を割り振ってしまうと、「時間」のあいだを行き来する動きがなくなってしまう。
シューベルトは「時間」を自在に行き来している。
ピアノをつかって「旋律」を生み出す、いま。
未来の子どもになって野を見る、いま。
未来の子どもになって旋律を聴く、いま。
旋律を聴きながら、この旋律がいつ生まれたのか、考える、いま。
「ここ」にあるのは「いま」だけであり、未来も太古も「考え」のなかにあらわれてくる「時間」であり、それは「呼び方」に過ぎない。「ある」のは「いま」という時間だけ。
そして「いま」しかないのだとしたら「未来」も「過去」も故障に過ぎないのだとしたら、最後の一行は、
未来に存在しているかのように(未来からやってきたかのように)
と読み直すこともできるのではないだろうか。
少なくとも、シューベルトにとって旋律は「太古から存在していた」というよりも「未来から」やってきたの方が近いと思う。まだ存在していないもの(存在したことのないもの)が、どこからともなくやってきた。「未知(未来)」からやってきたからこそ、「未来の子ども」はどう聞くかということが気になる。シューベルトにとって、旋律が「太古」から存在していたものとして認識されるなら、「太古の子ども」がどう聞くかが気になるはずだ。「太古の子ども」は旋律が「未来からやってきたかのように」聞くのではないか、と想像するはずだ。
で。
こんなふうに感じたことを全部ことばにしようとすると、「未来」と「太古」が交錯する。どちらも「いま」とつながっていて、「未来」と呼ぶか、「過去」と呼ぶかは、何を考えるかによって決まるだけになる。
「音楽の時間」は「音楽という時間」であり、「音楽」を「時間」で言うならば、どう言い表わせるかを考えた詩(考えさせる詩)と言えるかもしれない。
*
「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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