ジョージ・スティーブンス監督「ジャイアンツ」(★★★★)
監督 ジョージ・スティーブンス 出演 エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、ジェームズ・ディーン
冒頭のシーンが好きだ。牛の水飲み場。牛が遠くからやってくる。その牛の膨大な数、膨大な数の牛が徐々にスクリーンを埋めていく感じが、なんともすごい。いまならCGで映像にしてしまうかもしれないが、あの時代はカメラを据えて、集まってくる牛を待っている。その「時間」のかけ方がていねいだ。
それからロック・ハドソンを載せた列車が走る。野原には馬をつかって狩りが行われている。「時間」が交錯する。「過去」と「現在(未来)」がぶつかりながら動いていく。それが自然に表現されている。これは、そのまま映画のテーマになっていく。
農場と石油。過去と未来がぶつかり、未来が現在を破壊していく。破壊していくというと語弊があるかもしれないが、未来(石油)の方が支配力を強めていく。新しいものが古いものを破壊し、さらに巨大になっていく。
でも。
ほんとうは、そうではない。「過去」はいつでも「現在/未来」に対して反逆してくる。復讐してくる。ひとは「過去」を忘れることができない。このドラマをジェームズ・ディーンが好演している。あ、うまいなあ、と感心した。
ロック・ハドソンがそうであったように、ジェームズ・ディーンもエリザベス・テイラーに一目惚れする。でも、そのときはすでにエリザベス・テイラーはロック・ハドソンの妻になっている。しかもロック・ハドソンはジェームズ・ディーンの使用人なのだ。最初から不可能な恋に恋してしまうのだ。かなえられない恋なのだ。エリザベス・テイラーを見た瞬間の、鬱屈したジェームズ・ディーンがとてもいい。ロック・ハドソンとエリザベス・テイラーが恋に落ちる瞬間は、誰の目にもはっきり見える。まわりのひとが気づく。けれどジェームズ・ディーンの恋は、観客は気づいても、他の登場人物は気づかない。他の登場人物には、恋を隠しているからである。
これは、なかなか手が込んでいて、おもしろい。昔の映画は、こういうことをていねいに描いていたのだ。
で、鬱屈した恋だから、復讐も鬱屈している。ジェームズ・ディーンは遺言で手に入れた土地から石油(油井)を掘りあて、成り金になっていく。ロック・ハドソンの「使用人」から脱出し、ロック・ハドソンとエリザベス・テイラー、さらにその家族を支配するというと大げさだが、強い影響を与える。だれもジェームズ・ディーンに逆らえない。だれも逆らえないのだけれど、ジェームズ・ディーンはいちばんほしかったエリザベス・テイラーを手に入れることができない。
いまなら違った展開、違った人間模様が描かれるのだと思うが、昔の映画なので、愛は「恋愛」ではなく、「家族」へと収斂していく。その「収斂」のなかに、人種差別(メキシコ人差別)が組み込まれていくところが、当時としてはきっと「新しい」要素、「革命的」な要素だったと思う。
私はエリザベス・テイラーを美人だと思ったことはない(目が嫌いだ)し、ロック・ハドソンも演技がうまいとは思わないが、なんというか、そこにただいるだけ、ストーリーになっているというだけの「存在感」のいい加減さ(?)が、不思議なことにいい感じだ。冒頭に触れた「牛の群れ」のような感じ。「牛」に個性はないのだが、それが世界にとけ込んでいる。最後の最後、エリザベス・テイラーがロック・ハドソンに惚れ直すのだが、その惚れ直し方が、私が「あの牛の群れはよかったなあ」というような感じに似ている。「自然」を発見するという感じとでも言えばいいのか。
この「背景(人間の自然)」があるから、ジェームズ・ディーンの悲しい独白が胸に響く。ジェームズ・ディーンにしか似合わない鬱屈が切なく響く。こういう青春映画(?)は、もうつくられることはないだろうなあ、と思うと、私の「青春」はほんとうに終わったのだと感じる。でも、年金生活者になっても、やっぱり「青春」を感じたいなあ、とも思う。
そういう人は多いのか、「午前10時の映画」に来ているのは、高齢者ばかりだった。「あれは、妹の方よ」とかなんとか、女性が一生懸命、連れの男性にいちいち説明していた。かなりうるさいのだが、こういううるささも、こういう映画を見るときは、ひとつの「味」になる。そういえば、昔、「寅さんシリーズ」を見ていたとき、単なる風景シーン、そこがどこであるかをあらわすシーンなのに「まあ、おいしそうなミカン」と後ろの席で話していたおばさんグループがいたなあ。家でテレビやDVDを見ていてはわからない「味」というものが映画館にはある。
(午前10時の映画祭、2018年年11月27日、中洲大洋スクリーン3)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
監督 ジョージ・スティーブンス 出演 エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、ジェームズ・ディーン
冒頭のシーンが好きだ。牛の水飲み場。牛が遠くからやってくる。その牛の膨大な数、膨大な数の牛が徐々にスクリーンを埋めていく感じが、なんともすごい。いまならCGで映像にしてしまうかもしれないが、あの時代はカメラを据えて、集まってくる牛を待っている。その「時間」のかけ方がていねいだ。
それからロック・ハドソンを載せた列車が走る。野原には馬をつかって狩りが行われている。「時間」が交錯する。「過去」と「現在(未来)」がぶつかりながら動いていく。それが自然に表現されている。これは、そのまま映画のテーマになっていく。
農場と石油。過去と未来がぶつかり、未来が現在を破壊していく。破壊していくというと語弊があるかもしれないが、未来(石油)の方が支配力を強めていく。新しいものが古いものを破壊し、さらに巨大になっていく。
でも。
ほんとうは、そうではない。「過去」はいつでも「現在/未来」に対して反逆してくる。復讐してくる。ひとは「過去」を忘れることができない。このドラマをジェームズ・ディーンが好演している。あ、うまいなあ、と感心した。
ロック・ハドソンがそうであったように、ジェームズ・ディーンもエリザベス・テイラーに一目惚れする。でも、そのときはすでにエリザベス・テイラーはロック・ハドソンの妻になっている。しかもロック・ハドソンはジェームズ・ディーンの使用人なのだ。最初から不可能な恋に恋してしまうのだ。かなえられない恋なのだ。エリザベス・テイラーを見た瞬間の、鬱屈したジェームズ・ディーンがとてもいい。ロック・ハドソンとエリザベス・テイラーが恋に落ちる瞬間は、誰の目にもはっきり見える。まわりのひとが気づく。けれどジェームズ・ディーンの恋は、観客は気づいても、他の登場人物は気づかない。他の登場人物には、恋を隠しているからである。
これは、なかなか手が込んでいて、おもしろい。昔の映画は、こういうことをていねいに描いていたのだ。
で、鬱屈した恋だから、復讐も鬱屈している。ジェームズ・ディーンは遺言で手に入れた土地から石油(油井)を掘りあて、成り金になっていく。ロック・ハドソンの「使用人」から脱出し、ロック・ハドソンとエリザベス・テイラー、さらにその家族を支配するというと大げさだが、強い影響を与える。だれもジェームズ・ディーンに逆らえない。だれも逆らえないのだけれど、ジェームズ・ディーンはいちばんほしかったエリザベス・テイラーを手に入れることができない。
いまなら違った展開、違った人間模様が描かれるのだと思うが、昔の映画なので、愛は「恋愛」ではなく、「家族」へと収斂していく。その「収斂」のなかに、人種差別(メキシコ人差別)が組み込まれていくところが、当時としてはきっと「新しい」要素、「革命的」な要素だったと思う。
私はエリザベス・テイラーを美人だと思ったことはない(目が嫌いだ)し、ロック・ハドソンも演技がうまいとは思わないが、なんというか、そこにただいるだけ、ストーリーになっているというだけの「存在感」のいい加減さ(?)が、不思議なことにいい感じだ。冒頭に触れた「牛の群れ」のような感じ。「牛」に個性はないのだが、それが世界にとけ込んでいる。最後の最後、エリザベス・テイラーがロック・ハドソンに惚れ直すのだが、その惚れ直し方が、私が「あの牛の群れはよかったなあ」というような感じに似ている。「自然」を発見するという感じとでも言えばいいのか。
この「背景(人間の自然)」があるから、ジェームズ・ディーンの悲しい独白が胸に響く。ジェームズ・ディーンにしか似合わない鬱屈が切なく響く。こういう青春映画(?)は、もうつくられることはないだろうなあ、と思うと、私の「青春」はほんとうに終わったのだと感じる。でも、年金生活者になっても、やっぱり「青春」を感じたいなあ、とも思う。
そういう人は多いのか、「午前10時の映画」に来ているのは、高齢者ばかりだった。「あれは、妹の方よ」とかなんとか、女性が一生懸命、連れの男性にいちいち説明していた。かなりうるさいのだが、こういううるささも、こういう映画を見るときは、ひとつの「味」になる。そういえば、昔、「寅さんシリーズ」を見ていたとき、単なる風景シーン、そこがどこであるかをあらわすシーンなのに「まあ、おいしそうなミカン」と後ろの席で話していたおばさんグループがいたなあ。家でテレビやDVDを見ていてはわからない「味」というものが映画館にはある。
(午前10時の映画祭、2018年年11月27日、中洲大洋スクリーン3)
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