神谷美恵子「生きがいについて」(著作集1、みすず書房)を読んでいて、「人格」ということばにであった。
死刑囚にも、レプラのひとにも、世のなかからはじきだされたひとにも、平等にひらかれているよろこび。それは人間の生命そのもの、人格そのものから湧きでるものではなかったか。
「人格」ということばは、何度も何度も和辻哲郎の本のなかに出てくる。その定義はむずかしいが、私は、ひとが実践をとおして肉体の内部にかかえこむひろがりと感じている。
「おおきな人格」というのは、実践がそのひとを「おおきく」見せるのだと思う。そして、その「おおきさ」は客観的には測れないが、自然にわかってしまう「おおきさ」であり、「おおきなもの」は大きな引力をもっているから、それに引きつけられてしまう。
神谷は「人格」を「生命そのもの」とも呼んでいるが、この「読み替え(呼び方)」も、私には和辻に通じるものがあると思う。もちろん、この「思い」は私の「誤読」であり、神谷が和辻から影響を受けているかどうかは知らない。しかし、私は、私の「誤読」を通じて神谷と和辻をむすびつけるとき、妙に安心する。
ことば、あるいはひとのつながりはとても不思議なものだ。
私が神谷を読んでみようと思ったのは中井久夫の文章をとおしてである。アウレーリウス「自省録」(神谷訳)を読んだのも、中井が神谷について書いている文章のなかに登場したからである。そして、その神谷の文章のなかに「人柄」という和辻の大事にしていることばが出てきたとき、単に神谷と和辻が結びついただけではなく、中井とも結びついた。直接、中井と和辻を結びつけることばではないが(中井の文章のなかで「人柄」ということばがあったかどうか、いま、思い出すことはできない)、私の肉体のなかで「世界」がぐいと広がるのを感じた。「ことば」は時間も空間も超えて、「世界」を広げてくれる。
「人間の生命そのもの、人格そのものから湧きでる」を神谷は、こんなふうにも書き換えている。「生きがいの」の発見を「心の世界の変革」ととらえる視点から、こう書いている。
以前大切だと思っていたことが大切でなくなり、ひとが大したこととは思わないことが大事になってくる。これは外側から来た教えではなく、また禁欲や精進の結果でもなく、すっかり変わってしまった心の世界に生きるひとから、自然に流れ出てくるものと思われる。
「自然に流れ出てくる」。この「自然に」が「人格」なのである。そして、この「自然」に注目すれば、夏目漱石の「人間の自然」へもつながるだろう。漱石の描いている人間は、最初は何か「窮屈」である。つまり、苦悩している。それが何かのきっかけで「窮屈」を打ち破り「自然」に動き出す。ああ、あれは「人間」ではなく、ひとが「人格」になって動き出しているのだと思い出すのである。
そのときひとは「道」を歩いているのだ、と考えれば、それはまた和辻につながる。
「こころは存在しない」と考える私と違って、神谷は「心の世界」ということばをつかっているが、この部分をどう整理しなおすかは、書こうとすればかけるが(書きたいことはたくさんあるが)、長くなるので、書かないでおく。「こころは存在するか」というタイトルで書いているので、補足しておく。
もうひとつ、どうしても引用しておきたいことばが神谷の文章のなかにあった。読んでいて、ふいに涙があふれてきた。神谷の「人柄」を、私は、この文章に感じたのである。
深い苦しみと悲しみを克服して来たひとたちにも、以前と変わらぬ欠点や弱点を持った人間である。
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