詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『深きより』(5)

2020-11-17 09:12:05 | 高橋睦郎『深きより』
高橋睦郎『深きより』(5)(思潮社、2020年10月31日発行)

 「五 待ちつづける」は「小野小町」。

たぶんそこで わたくしは日がな夜どほし 待ちつづけた
誰を? 顔のない者を いつそ訪れそのものを と言はうか
それゆゑ いつしか付いた仮の名が小町 小やかな待つ女

 「待つ」と「訪れる」が交錯する。「動詞」は向き合うものがあって、はじめて行為として成り立つということか。動詞が向き合うとき、その両端に、たとえば男と女が生まれる。
 これは、詩の終わりで、こんなふうに言い直される。

されかうべの二つの眼窩にたまる雨水 雨水にうつる青空
あるいはそれが 花の移ろひ 夢の名残り 歌といふもの?

 「うつる」という動詞は書かれていない「うつす」を含む。「うつす/うつる」。雨水は青空を「うつす」、青空は雨水に「うつる」。それは切り離すことができない。
 同じように「待つ」は「訪れる」を切り離すことができないし、「訪れる」は「待つ」を切り離すことができない。
 しかし、現実には、その切り離せないものが切り離されてしまうことがある。
 その果てしない隔たりを「夢」がつなぐ。その「夢」をことばにした「歌」がつなぐ。「歌」は存在してはならない「断絶/切断」に懸けられた橋である。
 「待つ」けれど「訪れる」ものがいない。そのとき、「夢」は「歌」という橋をわたってしまう。
 それは「禁じられた越境」である。だから、「死(されこうべ)」になってしまうのだ。「歌」の橋をわたってしまうと。「歌」を詠んだひとは死ななければならない。ことばを生きた人間は死ななければならない。詩が、ことばにいのちを吹き込むのだ。死んだときにだけ、「待つ」という動詞が、たったひとつの生き方としてありつづける。永遠になる。


                



**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、skypeでお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★skype講座★
随時受け付け。ただし、予約制(午後10時-11時が基本)。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

**********************************************************************

「詩はどこにあるか」10月号を発売中です。
182ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
リンク先をクリックして、「製本のご注文はこちら」のボタンを押すと、購入フォームが開きます。

https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=1680710487

(バックナンバーは、谷内までお問い合わせください。yachisyuso@gmail.com)



オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977





問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 岸野昭彦『ら・その他』 | トップ | バッハ会談続報(情報の読み方) »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
高橋睦夫「深きより」5 (大井川賢治)
2024-03-22 23:47:33
詩の一句に印象的なものあり

/しゃれこうべの二つの眼窩にたまる雨水/

恐ろしい一句です、はかない一句です、しかし美しくもあります。

私は、このしゃれこうべをもう一度旅立せたい^^^私には放置できない。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

高橋睦郎『深きより』」カテゴリの最新記事