高橋睦郎『深きより』(5)(思潮社、2020年10月31日発行)
「五 待ちつづける」は「小野小町」。
「待つ」と「訪れる」が交錯する。「動詞」は向き合うものがあって、はじめて行為として成り立つということか。動詞が向き合うとき、その両端に、たとえば男と女が生まれる。
これは、詩の終わりで、こんなふうに言い直される。
「うつる」という動詞は書かれていない「うつす」を含む。「うつす/うつる」。雨水は青空を「うつす」、青空は雨水に「うつる」。それは切り離すことができない。
同じように「待つ」は「訪れる」を切り離すことができないし、「訪れる」は「待つ」を切り離すことができない。
しかし、現実には、その切り離せないものが切り離されてしまうことがある。
その果てしない隔たりを「夢」がつなぐ。その「夢」をことばにした「歌」がつなぐ。「歌」は存在してはならない「断絶/切断」に懸けられた橋である。
「待つ」けれど「訪れる」ものがいない。そのとき、「夢」は「歌」という橋をわたってしまう。
それは「禁じられた越境」である。だから、「死(されこうべ)」になってしまうのだ。「歌」の橋をわたってしまうと。「歌」を詠んだひとは死ななければならない。ことばを生きた人間は死ななければならない。詩が、ことばにいのちを吹き込むのだ。死んだときにだけ、「待つ」という動詞が、たったひとつの生き方としてありつづける。永遠になる。
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「五 待ちつづける」は「小野小町」。
たぶんそこで わたくしは日がな夜どほし 待ちつづけた
誰を? 顔のない者を いつそ訪れそのものを と言はうか
それゆゑ いつしか付いた仮の名が小町 小やかな待つ女
「待つ」と「訪れる」が交錯する。「動詞」は向き合うものがあって、はじめて行為として成り立つということか。動詞が向き合うとき、その両端に、たとえば男と女が生まれる。
これは、詩の終わりで、こんなふうに言い直される。
されかうべの二つの眼窩にたまる雨水 雨水にうつる青空
あるいはそれが 花の移ろひ 夢の名残り 歌といふもの?
「うつる」という動詞は書かれていない「うつす」を含む。「うつす/うつる」。雨水は青空を「うつす」、青空は雨水に「うつる」。それは切り離すことができない。
同じように「待つ」は「訪れる」を切り離すことができないし、「訪れる」は「待つ」を切り離すことができない。
しかし、現実には、その切り離せないものが切り離されてしまうことがある。
その果てしない隔たりを「夢」がつなぐ。その「夢」をことばにした「歌」がつなぐ。「歌」は存在してはならない「断絶/切断」に懸けられた橋である。
「待つ」けれど「訪れる」ものがいない。そのとき、「夢」は「歌」という橋をわたってしまう。
それは「禁じられた越境」である。だから、「死(されこうべ)」になってしまうのだ。「歌」の橋をわたってしまうと。「歌」を詠んだひとは死ななければならない。ことばを生きた人間は死ななければならない。詩が、ことばにいのちを吹き込むのだ。死んだときにだけ、「待つ」という動詞が、たったひとつの生き方としてありつづける。永遠になる。
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嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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/しゃれこうべの二つの眼窩にたまる雨水/
恐ろしい一句です、はかない一句です、しかし美しくもあります。
私は、このしゃれこうべをもう一度旅立せたい^^^私には放置できない。