2021年08月04日(水曜日)
伊藤悠子「習性として」(「左庭」47、2021年06月15日発行)
伊藤悠子「習性として」は「野風山風」「死が生を介抱しながらおとずれるということはあるか」という作品につづいて書かれている。三篇で「一篇」を構成している。そう把握したが、あえて最後の「習性として」だけを引用する。
夜陰に梔子の親風が吹くと
梔子はその姿を枯れたありのままを黙ってみせた
よくたえた このよのあつさに
しろいいとにまみれてげっそりと
こうなるのもむりもないこと
ことしはひどいあつさだったもの
あなたもはんぶんゆうれいになったのだから
きってもらったら
きってもらえなかったらたおれてから
いっしょにいきましょう
やがてかぜにかわるばしょへと
枯れた梔子は全身黙ってこたえた
まだ赤い実だったときを習性として微笑み抱いている
梔子と風との対話。風には「親」ということばがいっしょに動いている。そして梔子には「子」という文字が隠れている。親と子の対話ということになるだろう。
二行目「梔子はその姿を枯れたありのままを黙ってみせた」は「……を……を」と「を」が二回重なる。梔子の花びらの重なりのように見える。それはばらばらにはできない。重なることで「ひとつ」になる。そういうことを自然に感じさせる。梔子の花を見て、その花びらを一枚二枚と数えない。一枚に別の一枚が重なることで一輪になる。どの一枚を見たのか、と問うてもはじまらない。重なっているものを「ありのまま」、一輪と見るのと同じである。「ありのまま」ということばが、とても強く響いてくる。
「ありのまま」は三行目からの、ひらがなで言いなおされる。梔子にとっては「ありのまま」。でも、「親」から見れば、その「ありのまま」のなかに、さまざまなものがみえる。
「こうなるのもむりもないこと/ことしはひどいあつさだったもの」。この二行の中の「こと」「もの」の動きに、私はとても惹かれた。「……こと」「……もの」はどう違うか。私は「……こと」を客観的な視点と感じている。「……もの」は、あることがらを自分に引き受けて、「自分のこと」として語るときにつかう。
たとえば小さい孫がごはんをぱくぱく食べている。「よく食べることだなあ」は客観的。「よく食べるものだなあ」には「私にはあんなに食べられない」という主観が隠れている。
「ことしはひどいあつさだったもの」には、私はそれを実感として知っているという「主観」の声が隠れている。
だから、それからつづく「ひらがなことば」もまた「主観」なのである。そして、それは「親風」の「主観」であるだけではなく、「親風」がそう語っていると聞こえる「梔子」の「主観」なのである。あくまでも「梔子」が思ったこと、ある意味で言えば「空耳」なのである。「梔子」以外に、それを聞いた人はいない。
だからこそ、詩。
伊藤しか、その声を聞いていない。ひとりにしか聞こえなかった声を、ほかの人に聞こえるようにことばにしている。
私の感想は「おしゃべり」すぎだろう。
「梔子」は黙っている。「習性として」。
この詩はけっして声に出して読んではいけないものなのかもしれない。黙読し、感想をまたこころのなかに押しとどめておくべきものなのかもしれないが、私は書かずにはいられない。
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