細田傳造「まじめなマンション」(「妃」25、2023年12月28日)
細田傳造「まじめなマンション」を読みながら、「まじめ」の定義はなかなかむずかしい、と思う。
税務申告はやく済ませましょう
まじめなことに税金をつかっていただきましょう
さよならおげんきでまたね
家に還ってNHK正午のニュースを見る
政治家のお顔が映っている
まじめかしら ついつい疑ってしまう
これは、まあ、だれもが考える「まじめ」の部類かなあ。このあとに、細田の「まじめ」がぬっと顔を出す。
信頼しなくてはいけませんよね
ともだちもじぶんの近々の邪念を語る
あれからずっとセックスしていないの
しなさいよ
誰と
返事につまる
もうかれこれ
一年前から彼女のつれあいは天国にいらっしゃる
天国でなさいなさいよ
とはいえない
この世で誰かとしちゃえばともいえない
「この世で誰かとしちゃえばともいえない」とは、いわば軽口のようなのもだけれど、その前の「返事につまる」。これがいいなあ。まじめだなあ。まじめに気がついて、細田はそれを隠そうとして詩を軽口の方向に動かしていくのだが、「返事につまる」(ことばにつまる)、そのときの感じがいいなあ。
「つまる」という動詞がいいのだ。
「返事につまる」は、言いなおせば「返事」が「どこかに」つまる。その「どこか」を省略したまま、私たちは「返事につまる」という表現をつかうが、これは誰もが、返事が「どこに」つまるかを知っているから省略するのである。
この呼吸が、細田の細田らしい繊細さ、敏感さ。
「誰もが知っていること」は、言わないのである。
それは「税務申告ははやく済ませましょう/まじめなことに税金をつかっていただきましょう」や「政治家」は「まじめかしら」にも通じる。そのあとに「疑ってしまう」があったが、実際はどうなのか、みんな「知っている」。
ところが、セックスをどうすればいいのか。これには、みんなが知っている「正解」がない。その「正解」のないところに、ほら、「まじめ」が突然あらわれる。「まじめ」になるしかない。「まじめ」になるというのは、自分で考えるということだね、とも思う。「まじめ」に考えると、ことばは動かない。かわりに、肉体のなかで感情が動く。その感情(気持ち)がつまるのでもある。「返事につまる」は「気持ちがつまる」でもあるのだ。そして、「気持ちがつまる」と書くと、なんというか、これはこれで相手に踏み込みすぎる。セックスのことなんか「気持ち」にしてしまってはいけないのだ。細田はまじめだから、そう考えている。
他人というか、相手といった方がいちばんいいのかなあ、向き合っている人との、距離のとり方が、細田はほんとうに繊細だ。そこに細田の「正直」があらわれている。
「返事につまる」という一行が好きで、私は、この詩を何回も読み直してしまった。
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自由恋愛というのとも、まあ、違う気がする。
人間の心は思いがけずに動く。
その思いがけない動きを、あるがままに描いている。
あるがままに、それをことばにすることができるところが細田のおもしろいところ。
作為もあるだろうけれど、作為を消す「わざ」をしっかりと身につけている。