詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ピアニッシモ

2016-02-08 00:00:00 | 
ピアニッシモ

 私は遅れてその部屋に入っていったのだが、「ピアニッシモ」というのは、すぐに「比喩」だとわかった。わざと抑えた欲望という意味と、知れ渡った秘密の共有という意味に分かれて、それがそのままそこにいるひとを区別した。白い皿と、中央に置かれた果物のいくつかの色を跳び越えるように、ことばが行き交ったが、語られるのは思ってることではなく、それぞれが知っていることであった。したがって、ひとを区分けしているのはことばの内容というよりも、ことばといっしょに動く意味深な目配せや、唇の端に浮かぶゆがみであり、それを不注意に「感情」と誰かが言い換えてしまったために、突然、沈黙が広がってしまった。
 「いまのお考えについて、どう思われます?」
 決して他人と同じ意見を言わないひとが、私に問いかけてきた。私は、質問とは無関係に、私の順番がきたら言おうと思っていたことばを、何度も何度も頭の中で繰り返していたのだが、言わなければならない瞬間にのどがこわばり、声がかすれてしまった。「あのピアニッシモのタッチには、独特の感情というよりは、数年前に流行したスタイルの影響が感じられますね。何かの衝動に負けて動いてしまうというよりも、そういう雰囲気をだそうとしている。私はむしろ、それを意思と呼んでみたい気がします。」



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