詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

石毛拓郎「母乳、余滴。」

2023-10-08 22:22:35 | 詩集

石毛拓郎「母乳、余滴。」(「ココア共和国」2023年10月号)

 石毛拓郎「母乳、余滴。」には長いサブタイトルがついている。それは省略する。
 その終わりの方の部分。

いまは、大潮の赤帯のそよぎでざわめいている。
その気配で、馬鹿貝は赤い泡を吐き出して、跳ぶのだ。
跳びあがれないで、土左衛門になってしまうものは
海中の砂楼閣、貝塚をしつらえる。
貝を探す者の足裏に当たる、主人を失くした殻よ。
(土佐意識と観念は、このように何気なく隠れている)

 この部分と、私がこれから引用する林達夫の文章とどういう関係があるのか、実は、私にもわからない。ただ、突然、思い出してしまったのだ。「ちぬらざる革命」という文章の中にある。(林達夫著作集5)

 君は不服そうな顔をしているが、それは君の時代を見る目が、下らぬ新聞や雑誌の見出し(ヘッドライン)にしかくっついていない証拠だ。あとになって時代の顕著な動きと見られるものはその時代には明確には掴めず、つまり見出しにはなりにくいという鉄則に早く気づく必要があるね。

 石毛は,新聞の見出しなど気にしない人間だ。自分の身の回りで起きていることを気にしている。たとえば、馬鹿貝の死。それが、では、私の(あるいは、いま起きている様々な)現実とどうつながっているのか、それを説明し始めたら、きっと、さらにわからなくなるだろう。なんでもそうだが、それが起きているとき、それを説明するには、とてもめんどうな手続きが必要なのだ。
 たとえば、詩を書いて見せる、とか。
 そんなものを読んだってわからない。それが、そして、とても問題であり、とても大事なのだ。
 「無人境のコスモポリタン」には、林達夫は、こんなことを書いている。

 政治はどこか遠い見知らぬ場所から出る得体の知れぬ指令で運営され、ただそれに黙従する以外に手はなく、自らの政治的社会的要求を政治に直接に反映させるなどは思いも及ばぬことになってしまっていたのです。

 石毛は、この林達夫の文章を踏まえて書いてるわけではないだろうが、詩の最後は、こう閉じられている。

とげとげしい立入禁止の看板が、倒れている。
その殺風景の砂浜から、腹這いに眺めみる新世紀の渚に
前代未聞の「馬鹿」が出現することもある。
その及ぶ限りの澪の片隅に眠る、馬鹿貝の母乳は
ここ、鹿島灘にもあったし、伊勢湾先端の渥美半島にも
そうだ! あそこ、沖縄大浦湾辺野古にもあった。
すべてのことが、前代未聞のことさえ起こりうる
その、潮の満ち引きにうまれる母乳!
渚に…………。

 新聞の見出しは鹿島灘、渥美半島、辺野古を結びつけない。しかし、石毛は結びつける。何によって? 馬鹿貝によって。もっとはっきり言えば、馬鹿によって。村上春樹は、ノーベル賞はもらわなくても新聞の見出しになるが、そんなふうに見出しにならずに死んでいく馬鹿がいる。その馬鹿に、石毛はなる。そのために、詩を書いている。


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Estoy Loco por España(番外篇400)Obra, Juancarlos Jimenez Sastre

2023-10-04 22:40:43 | estoy loco por espana

Obra, Juancarlos Jimenez Sastre

   ¿Dónde estaban estos árboles, piedras y hierro antes de que se reunieron aquí? ¿Que estaban haciendo? Habrían vivido de una forma diferente a la que existen aquí ahora. No, es posible que lo hayan desechado por considerarlos algo inútiles. Sin embargo, incluso si se tira a las basuras, hay "vida" en ellos. "Los recuerdos" permanecen. El “tiempo” continúa. Y estos continuarán.
   No siento que este trabajo esté completo. Creo que las cosas seguirán cambiando poco a poco. Siento que el tiempo dentro de la madera, la piedra y el hierro seguirán influyendo mutuamente y en su unión seguirán creando un universo más grande que el espacio exterior a ellos. Por eso ellos se unen. Para provocar un nuevo big bang.
   Hay ansiedad y expectativa de que se produzca una explosión en el punto donde se unen la madera, la piedra y el hierro. Hay tensión antes de que algo explote.

  ここに集まる前、この木と石と鉄は、どこにいたのか。何をしていたのか。いま、ここに存在する形とは違う形で生きていただろう。いや、役に立たないものとして、捨てられていたのかもしれない。しかし、捨てられても、そこには「いのち」がある。「記憶」が残っている。「時間」がつづいている。そして、それはつづいていく。
  私は、この作品が完成しているとは感じない。これからも少しずつ変わっていくだろうと思う。木と石と鉄の中の時間が互いに影響し合って、その結びつきの中に、かれらの外にある空間よりも大きな宇宙をつくり続けるだろうと感じる。そのために集まってきたのだ。新しいビッグバンを引き起こすために。
  木と石と鉄が結びつく、その接点で爆発が起きる不安と期待がある。何かが爆発する前の緊張がある。

 

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中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(45)

2023-10-03 22:21:04 | 中井久夫「ギリシャ詩選」を読む

 「さるギリシャ大植民地にて、紀元前二百年」。とてもおもしろい一行がある。

重箱の隅までつつかれ、刻まれ、粉々だあ。

 ギリシャに「重箱」はないだろう。だから、これは意訳。
 さて。
 ここからが問題。
 「重箱」がないとして、それでも「重箱の隅までつつく」に類似した言い方はないといえるか。他の部分に書いてあるが、「些細なことを問題にし」難癖をつけるというのは、どの世界にもあることだからね。
 だからね……というのは、私の飛躍なのだが。
 だからね、ことばを読むときは「動詞」を中心にして読まないといけないのだ。動詞とは、つまり肉体の動きだが、その肉体の動きは、どのひとにも共通するものがある。肉体にできることは限られているからね。肉体は「概念」ではないから、他人とまったく違ったことができる人は限られている。みんな、似たりよったり。
 だから、感情も似るんだろうなあ。
 カヴァフィスの時代のギリシャも、カヴァフィスが描く紀元前のギリシャも、わかったつもりになれるんだろうなあ。
 これは、だから、注意しないといけない、ということかもしれないのだが。
 つまり、「わかったつもりになるなよ」と。

 だから。

 この一行、中井の訳は、ちょっと「意地悪」でもあるね。


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林達夫「イタリア・ファシズムの教育政策」

2023-10-01 11:54:26 | 考える日記

林達夫「イタリア・ファシズムの教育政策」(林達夫著作集5)(平凡社、1982年3月23日、初版第12刷発行)

 林達夫「イタリア・ファシズムの教育政策」を読んでいて、次の文章に出会う。昔は気がつかなかった。読み落としていた。

 ファシスト教育はあらゆる手段を以て資本主義体制を防衛し、ブルジョアジーの階級的支配を確保することに重点を置いている(30ページ)

 ここでいう「ブルジョアジー」とはいわゆる「資本家」のことである。

 労働者階級の地位を徹底的に劣悪化することによって(賃金値下げ、労働時間延長、合理化強行)辛うじて命脈を保ってきたイタリア資本主義は、今日、深刻な経済恐慌の渦中にあって気息奄々としている。(35ページ)

 「イタリア資本主義」を「アベノミクス」に変えれば、日本の現状にぴったり合致する。
 いま岸田は、「賃上げ」によって方針転換をしているように装っているが、賃上げは物価高によって相殺される。そして、そのとき労働者に還元される金よりも、資本家が確保する金の方が「大きい」だろう。だから「賃上げ」はみかけにすぎず、労働者の生活は一向に改善しない。私のような年金生活者は物価高によって年金が目減りするだけである。

 ここからひるがえって(?)思うのだが。

 いま世界で進行しているのは、ファシズムである。アメリカ資本主義(アメリカの資本家)が資本を独占しようとする動きである。それを戦争で遂行しようとしている。
 私が念頭に置いているのは、ロシア・ウクライナ問題である。ロシアがウクライナに侵攻したことは、もちろん悪い。そして、最終的に、アメリカがベトナムやアフガニスタンから撤退したように、ロシアは撤退するだろうと思うが、これを、アメリカ資本主義(強欲資本家)から見つめなおせば、こういうことだろう。
 つまり、ロシアがウクライナに侵攻する前は、EUとロシアの経済関係はとてもよかった。EUとロシアは経済的に相互依存の関係にあった。言い直せば、アメリカの資本家はEUでの「利益」をロシアに奪われていた。それを取り戻す必要があった。ロシアの経済を「封じ込める」必要があった。そのためにウクライナを利用したということだろう。
 もちろん、こんなことをアメリカ資本主義(その傀儡のバイデン)が言うはずがない。ウクライナに侵攻したロシアが悪い、民主主義、法の支配を破壊する行為だという。そのほかのことを考えさせないために、懸命に宣伝している。マスコミが(マスコミもまた資本主義のブルジョアであるから)、一生懸命、その片棒を担いでいる。
 林達夫は自分のことばではなく、ムソリーニが「反ファシスト新聞」を禁止したときの、新聞『イムペロ』から次のことばを引用している。(パシュカーニスからの「孫引き」らしい。)

「何人も自分の頭を以て考える権利を有するというが如き愚かな空想は、今晩から絶滅されなければならぬ。イタリアは唯一の頭を有する。ファシズムは、唯一の頭を有する。それは『指導者』の頭であり、脳髄である。裏切り者のすべての頭は、容赦なく切り捨てなければならない。」(39ページ)

 「自分の頭で考える」人間は「裏切り者である」。ここでいう「裏切り者」のことを、日本の右翼は「反日」と呼んでいる。安倍-岸田の言うことを批判する人間は「反日」である。そういう「反日」の「すべての頭は、容赦なく切り捨てなければならない」。これが、いわゆるインターネットの世界で起きていることでもある。

 読みながら、林達夫が生きていたら、いまの日本の社会を見たなら、形をかえた「日本ファシズム」論を書いたかもしれないと思う。
 書かれていることが、あまりにもいまの日本(あるいは世界の動き)と重なる。
 だから、こんなけとも思う。
 日本では、見かけの「賃上げ」「物価上昇」(好景気)の影で、資本家の利潤だけが拡大し、さらにその利潤に労働者の視線が向かないようにするために、いわば誘導策戦として戦争がつぎつぎに引き起こされるだろう。ロシア・ウクライナのあとは、中国・台湾である。アメリカは、すでにロシア・ウクライナで十分な利益を上げたと判断したのか(あるいは、厭きたのか)、ウクライな支援予算について不満をもらし始めている。ヨーロッパのいくつかの国でもウクライナ支援を手控える動きが出ている。このことは、アメリカの視線が中国・台湾へと向かっていること、世界の視線を中国・台湾に向けさせようとしている動きといえるだろう。実際に「台湾有事」が起きるかどうかは別にして、危険だと大騒ぎすれば日本はアメリカの軍需産業から武器を買う。それだけでもアメリカの資本家は大喜びをするだろう。

 

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