数日前、ワシントン・ポストを読んでいると、「原油価格の高騰が世界の富をシフト」と言う記事が出ていて、世界中の原油価格高騰による悲喜こもごもの動きが報道されていた。
5年前と比べて、原油消費者が、毎日、4~5000億円余計に支払っており、今年だけでも、100兆円以上の金が、石油会社や産油国の金庫に流れ込むのであるから、富の流れとストックを大きく変えてしまうのは必然である。
中国のガソリン・ポンプ、クレムリンの膨張した自信、チャドの新軍需兵器、サウディ・アラビアの新石油化学プラント、韓国のノー・ドライビング運動、トヨタの売上激増、セネガルの財政負担、ブラジルの福運、などと言った例証で記事をスタートしているが、アメリカ人にとっては、当面の経済的苦境が問題であろう。
原油の輸入価格の高騰によって、貯蓄率の低下、インフレーション、貿易収支の悪化、ドルの暴落、更に、FRBのインフレ抑制や経済成長維持政策を益々やりにくくしている。
しかし、アメリカにとっては、内政も大切だが、原油価格の高騰によって濡れ手で粟の産油国が、地政学的にも、世界戦略的にも、好ましくない国が多いのが一番問題であろう。
まず、最初の問題国は、イランとヴェネズエラである。原油高騰で得た富を、ヴェネズエラは、アメリカのお膝元の南米の保護者然として援助資金に使って勢力を伸ばしており、イランは、収入増として活用しているので、核拡散防止と視察許可に追い込むために経済封鎖して圧力をかけているのに帳消しになってしまっている。
更に、問題はロシアで、ルーブル崩壊と国家経済のディフォールトに陥りながらも、原油価格の高騰で、今や、4250億ドルもの外貨を貯め込んだ世界第3位の債権国家となり、プーチンが磐石な勢力を誇っている。
プーチン政権後、平均所得は2倍に増加し、貧困ラインに居た国民が半分に減り、モスクワやサンクト・ペテルブルグのみならず、田舎の都市にも、24時間ハイパー・マーケットや最新のビル群や高級外車が広がっている。
豊かな富を活用して、再び、以前の連邦下の関係国に影響力を行使し始め、NATO拡大阻止やイランへの独自のアプローチなどで国威の発揚に動き出している。
今回のウクライナとグルジアのNATO参加見送りも、そのパワーのなせるところであろう。
しかし、多くの経済学者が、これらの原油による富は、むしろ毒になっていることで、それらの国が、富を多角的に活用し、広く平等に分配することをせず、将来に向かっての地についた経済発展努力を阻害していると指摘している。
ロシアなどは、インフレーションが進行し、輸入が増大し、ブームを作り出している正にその産業にさえ新しい投資を行っていないと言う。
原油による悲劇は、アフリカにおいては、産油国でも、輸入国でも生じている。
産油国ナイジェリアは、内乱と腐敗に明け暮れているので、豊かな油田が適切に掘削されず、利益は流用されて国民生活の向上には使われず、むしろ石油が呪いとなっており、
スーダンは、首都カルツームは繁栄しているが、ダフールの民族弾圧で欧米の経済封鎖を受けており、
チャドは、石油収入を国の経済の発展のためではなく、軍事兵器の輸入にばかり使っている。
しかし、もっと悲劇は、原油輸入国で最貧国のセネガルのような国で、財政赤字が倍増し、インフレが進行し、成長が鈍化するなど国家経済は惨憺たる状態で、国有石油会社が閉鎖されて久しい。
いずれにしろ、今世界中で話題となっているジンバブエのムガベのような、一将功なり万骨枯ると言った為政者に泣く国民があまりにも多いのがアフリカである。
石油輸入国である中国も深刻で、昨年10月に10%値上げしたが、供給不足で、全国ガソリンスタンドでは長蛇の列で、あっちこっちで暴動が起きていると言う。
今尚、政府が石油に補助金を支出しているので、既に世界の9%の消費国でありながら、価格が上昇し続けても、年率8.7%で消費が伸びているのである。
面白いのは南ア連邦で、石油が高騰しているにも拘わらず、貧しくて疎外されていた中上流の黒人達が、クルマを持つことがステイタス・シンボルなので、自動車の売上が年率15%以上で伸び、石油の消費量は、この10年で39%増だと言う。
この2国のように伸び盛りで上昇志向の強い国民にドライブされた国は、かっての日本と同じで、国民のパワーが充満していて、高くても三種の神器に向かって一目散と言うのが当たり前で、石油の消費制限などもっての外と言う気持ちであろう。
産油国のドバイやサウディ・アラビアなどの目を奪う好況と開発ブームに沸く地球改造については、言うまでもなく原油価格の高騰ゆえの現象であるが、問題は、果たして、この高度成長が誘い水として、これらの国家や地域を、実質的に先進国並みの経済社会水準に高め、それを持続出来るかどうかであろう。
中東各地に、ニュー・マンハッタンが現出しつつあると言う現象は、謂わば、ハンチントンの言う文明の衝突において、イスラム文化が、プラグマティックで勝利を得ると言うことだとすると、アルカイダは必要ないと言うことであろうか。
日本については、日本の省エネへの取り組みを高く評価しながら、原油高による物価上昇などを論じ、Greasing Toyota's Gearsと言うサブタイトルで、トヨタがプリウスなどハイブリッド自動車で勝者だと報じている。
他にもイギリス、オーストラリア、アルゼンチンなどについても論じているが、要するに、石油高騰によるアメリカの没落への歯軋りが聞えるような記事である。
しかし、金融工学で世界中に信用創造で膨らませたドルを撒き散らし、中国やインドを目覚めさせ、グローバル経済の拡大に悪乗りして、言うならば、世界経済をコントロールの利かないリバイヤサンに仕立て上げたアメリカの経済エゴがその原因であると言えよう。
原油高騰など、その最たる現象である。
(追記) 写真は曙椿。
5年前と比べて、原油消費者が、毎日、4~5000億円余計に支払っており、今年だけでも、100兆円以上の金が、石油会社や産油国の金庫に流れ込むのであるから、富の流れとストックを大きく変えてしまうのは必然である。
中国のガソリン・ポンプ、クレムリンの膨張した自信、チャドの新軍需兵器、サウディ・アラビアの新石油化学プラント、韓国のノー・ドライビング運動、トヨタの売上激増、セネガルの財政負担、ブラジルの福運、などと言った例証で記事をスタートしているが、アメリカ人にとっては、当面の経済的苦境が問題であろう。
原油の輸入価格の高騰によって、貯蓄率の低下、インフレーション、貿易収支の悪化、ドルの暴落、更に、FRBのインフレ抑制や経済成長維持政策を益々やりにくくしている。
しかし、アメリカにとっては、内政も大切だが、原油価格の高騰によって濡れ手で粟の産油国が、地政学的にも、世界戦略的にも、好ましくない国が多いのが一番問題であろう。
まず、最初の問題国は、イランとヴェネズエラである。原油高騰で得た富を、ヴェネズエラは、アメリカのお膝元の南米の保護者然として援助資金に使って勢力を伸ばしており、イランは、収入増として活用しているので、核拡散防止と視察許可に追い込むために経済封鎖して圧力をかけているのに帳消しになってしまっている。
更に、問題はロシアで、ルーブル崩壊と国家経済のディフォールトに陥りながらも、原油価格の高騰で、今や、4250億ドルもの外貨を貯め込んだ世界第3位の債権国家となり、プーチンが磐石な勢力を誇っている。
プーチン政権後、平均所得は2倍に増加し、貧困ラインに居た国民が半分に減り、モスクワやサンクト・ペテルブルグのみならず、田舎の都市にも、24時間ハイパー・マーケットや最新のビル群や高級外車が広がっている。
豊かな富を活用して、再び、以前の連邦下の関係国に影響力を行使し始め、NATO拡大阻止やイランへの独自のアプローチなどで国威の発揚に動き出している。
今回のウクライナとグルジアのNATO参加見送りも、そのパワーのなせるところであろう。
しかし、多くの経済学者が、これらの原油による富は、むしろ毒になっていることで、それらの国が、富を多角的に活用し、広く平等に分配することをせず、将来に向かっての地についた経済発展努力を阻害していると指摘している。
ロシアなどは、インフレーションが進行し、輸入が増大し、ブームを作り出している正にその産業にさえ新しい投資を行っていないと言う。
原油による悲劇は、アフリカにおいては、産油国でも、輸入国でも生じている。
産油国ナイジェリアは、内乱と腐敗に明け暮れているので、豊かな油田が適切に掘削されず、利益は流用されて国民生活の向上には使われず、むしろ石油が呪いとなっており、
スーダンは、首都カルツームは繁栄しているが、ダフールの民族弾圧で欧米の経済封鎖を受けており、
チャドは、石油収入を国の経済の発展のためではなく、軍事兵器の輸入にばかり使っている。
しかし、もっと悲劇は、原油輸入国で最貧国のセネガルのような国で、財政赤字が倍増し、インフレが進行し、成長が鈍化するなど国家経済は惨憺たる状態で、国有石油会社が閉鎖されて久しい。
いずれにしろ、今世界中で話題となっているジンバブエのムガベのような、一将功なり万骨枯ると言った為政者に泣く国民があまりにも多いのがアフリカである。
石油輸入国である中国も深刻で、昨年10月に10%値上げしたが、供給不足で、全国ガソリンスタンドでは長蛇の列で、あっちこっちで暴動が起きていると言う。
今尚、政府が石油に補助金を支出しているので、既に世界の9%の消費国でありながら、価格が上昇し続けても、年率8.7%で消費が伸びているのである。
面白いのは南ア連邦で、石油が高騰しているにも拘わらず、貧しくて疎外されていた中上流の黒人達が、クルマを持つことがステイタス・シンボルなので、自動車の売上が年率15%以上で伸び、石油の消費量は、この10年で39%増だと言う。
この2国のように伸び盛りで上昇志向の強い国民にドライブされた国は、かっての日本と同じで、国民のパワーが充満していて、高くても三種の神器に向かって一目散と言うのが当たり前で、石油の消費制限などもっての外と言う気持ちであろう。
産油国のドバイやサウディ・アラビアなどの目を奪う好況と開発ブームに沸く地球改造については、言うまでもなく原油価格の高騰ゆえの現象であるが、問題は、果たして、この高度成長が誘い水として、これらの国家や地域を、実質的に先進国並みの経済社会水準に高め、それを持続出来るかどうかであろう。
中東各地に、ニュー・マンハッタンが現出しつつあると言う現象は、謂わば、ハンチントンの言う文明の衝突において、イスラム文化が、プラグマティックで勝利を得ると言うことだとすると、アルカイダは必要ないと言うことであろうか。
日本については、日本の省エネへの取り組みを高く評価しながら、原油高による物価上昇などを論じ、Greasing Toyota's Gearsと言うサブタイトルで、トヨタがプリウスなどハイブリッド自動車で勝者だと報じている。
他にもイギリス、オーストラリア、アルゼンチンなどについても論じているが、要するに、石油高騰によるアメリカの没落への歯軋りが聞えるような記事である。
しかし、金融工学で世界中に信用創造で膨らませたドルを撒き散らし、中国やインドを目覚めさせ、グローバル経済の拡大に悪乗りして、言うならば、世界経済をコントロールの利かないリバイヤサンに仕立て上げたアメリカの経済エゴがその原因であると言えよう。
原油高騰など、その最たる現象である。
(追記) 写真は曙椿。