熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

久しぶりの関西・・・奈良東大寺二月堂への道

2008年04月14日 | 生活随想・趣味
   文楽の昼の部が跳ねて、すぐ、地下駅にもぐり近鉄で奈良に向かった。
   大阪に出て2~3時間余裕が出ると、殆ど間違いなしに奈良へ向かって、奈良公園を通り抜けて東大寺の境内に入る。
   私の好きな散策の道は決まっていて、時間の余裕具合によって、立ち寄る所を変えてバリエーションを付けている。
   半日程度の時間があれば、薬師寺や唐招提寺を訪ねて西の京へ、もっと時間があれば法隆寺や、浄瑠璃寺、室生寺などを訪れたりするが、学生時代からだから、もう何十年にもなる。

   この日は、迷うことなく東大寺の三月堂(法華堂)に向かった。道内の16体の御仏と対話するためである。
   私は、随分、世界のあっちこっちの彫刻など素晴らしい彫像をかなり見て歩いて来たが、ミケランジェロやロダンなどと比べても、日本の仏像彫刻の素晴らしさは一歩も劣っていないと思っている。
   特に、この小さな法華堂に安置されている不空羂索観音を筆頭とする12体の国宝、4体の重文、それに、その背後に安置されている良弁僧正の念持仏である秘仏の国宝・執金剛神像等の素晴らしさは群を抜いており、静まり返った薄暗い堂内での御仏との対話は、時空を超えて感動的な時間を与えてくれる。

   私の三月堂への道は決まっていて、雨の日も風の日も同じ道を歩いて行く。
   奈良県庁舎の横を北にとって知事公舎を右手に依水園に向かう。背後に優しい若草山の姿を背負って南大門が聳えている。
   正面を左折れして真っ直ぐに戒壇院に歩く。途中、左手に信楽の狸の置物のある蕎麦屋があり、程なく写真家の入江泰吉氏の旧宅があり、まだ、そのまま標札が掛かっている。戒壇院の急な階段の先に国宝四天王立像が安置されている御堂が見えるが、この日は時間がなかったので、正面を右折れして公園に入った。
   葉桜となって新緑の美しい公園越しに、正面に、巨大な大仏殿の大屋根が聳えている。鹿が草を食んでいる。何時もなら写生をしている素人画家達が居るのだが、この日は、全く人が居なく、最後に残った一本の八重の枝垂桜だけが光り輝いていた。

   大仏殿を右手に、礎石だけが残る講堂跡を左手にして歩いて行くと、大湯屋が右手に見える。このあたりは、全く、田舎の風情で田んぼもあり、急な小川の水音を聞きながら前方の高みに建つ二月堂の舞台を目指して歩を進めて行くと、一人の可愛い少女が犬を連れて坂道を下りて来た。
   宝珠院横を回りこんで小道に入ると、狭くなった坂道に建つ中性院の門の向こうに、二月堂の建物が聳えていて舞台を歩く観光客の姿が見える。
   この風景は、入江さんも写真に収めていて画家や写真家の格好の被写体だが、この口絵写真の場所である。
   私は、季節の移り変わりによって色彩豊かに変化する左手の白壁越しに顔を覗かせる花や紅葉などの変化を楽しみにしている。
   この日は、木蓮と椿の花が彩りを添えていた。

   良弁僧正で有名な良弁杉の後に二月堂の大舞台が聳え立っているが、上らずに、すぐ右隣の広場に面して翼を広げている法華堂に向かった。
   正面には、最近では珍しくなった中学生の修学旅行の集団が、ガイドの説明を聞いていた。
   私は、そのまま、法華堂に入ったが、狭い堂内は中学生で一杯であった。
   ガイドのオバサンの説明は、結構子供たちには新鮮だったようだが、私にとっては聞かずもがなの話でやかましいだけだが仕方がなく聞いていた。
   中学生達は、長野からだと言う。薬師寺や法隆寺は予定にない様であった。
   元関西人の私も、今は旅人である。

   5時を過ぎると、一斉に学生達は引き上げ、他の観光客も消えてしまったので、堂内は水を打ったように静まり返って、薄暗い狭い空間に御仏の群像が静かに語りかけてくれる。
   20分ほど、私は一人で御仏との対話を続けていたが、寺男が、堂の扉を閉めに入ってきた。
   不空羂索観音の宝冠が盗まれたと言うが、どうして盗まれたのか聞くと、何十年も前に、二月堂のお水取りのドサクサに、泥棒が仏像に梯子をかけて上って宝冠の宝石を外して持ち去ったのだと言う。
   あのモナ・リザでさえ、イタリアの設備工によって盗まれてイタリアに持ち帰れられたのであるから、無防備な堂内での盗難は至極簡単だったのであろう。
   質屋に入れたところを捕まえられたとか、罰当たりが居るものである。

   法華堂を後にして、少し夕日が強くなった東大寺の境内を真っ直ぐ大仏殿に向かって下り、大仏殿の右側を回り込んで、正面の参道を南大門に向かって歩いた。
   もう殆ど観光客も居なくなって参道に面したみやげ物店が店じまいを始めている。
   鹿たちが、せんべいを持った観光客を追っかけている。
   東大寺の夕暮れは静かである。

   私は、そのまま、奈良国立博物館の横を通り抜けて、興福寺横を近鉄奈良駅に向かった。
   時間があれば、興福寺境内でゆっくり時間を過ごして、奈良町を散策するのだが、夜のJALで伊丹から東京に帰るので、先を急いだ。
コメント
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