熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

山口への旅・・・緑滴る津和野

2016年05月23日 | 花鳥風月・日本の文化風物・日本の旅紀行
   山口で私用があったので、それを挟んで、二泊三日の山口旅に出た。
   丁度、新緑の季節で、緑萌ゆる美しい旅を楽しむことが出来た。
   何回かの山口の旅で、観光スポットは殆ど訪れているので、今回は、シンプルに、久しぶりに、津和野、萩に行くことにし、初めてなので、山口では瑠璃光寺の国宝五重塔を見たいと思った。
   

   羽田を早朝に発っても、山口宇部からでは、新山口経由で、津和野へは、特急おき号1本だけで、午後の2時前にしか着かない。
   幸いにもこの日は、良い天気に恵まれて、山口を越えて山間部に入ったあたりから、車窓の景色は一変して、豊かな日本の田舎風景が展開されて、緑のコントラストとグラデュエーションが美しかった。
   首都圏の郊外とは全く様変わりで、お粗末な広告塔や看板など人工的な不純物がなくて自然そのもの。
   もう何十年も前に、解放以前の中国に、香港から封印列車に乗って入国した時に、貧しい中国でありながら、綺麗に手入れされた美しい田舎の風景を見て感激したことを思い出した。
   
   
   
   

   気になったのは、日本屈指の美しい津和野でありながら、夕方5時には、殆どの店が閉まって、太陽が照りつける観光歩道から人影が消えてしまう寂しさで、このシックで美しい津和野の旅の情趣は特別なのかも知れないと言うことである。
   便利な首都圏生活に慣れてしまっているので、夕方、落ち着いて旅情を醸し出してくれそうなレストランに入って夕食でも楽しんで、ゆっくり夜の列車にに乗って山口へ帰ろうと思ったのだが、土曜日でありながら思っていた店も閉まっていて、寂しい限り。
   それでも、歩いていれば何か良い店でも見つかるであろうと思ったのだが、そのような雰囲気は全くなくて、駅に着いてしまった。

   丁度、幸いと言うか、駅のアナウンスで、新山口行きの特急おき号が到着すると伝えている。
   駅の時刻表を見たら、この17時50分発の特急おきを逃したら、次の19時35分発の山口行き最終便の鈍行1本しかなく、こんな寂しい駅で2時間近くも放り出されてしまえば干上がってしまう。
   急いでチケットを手配しようと思ったら駅員一人。
   すべてを一人で熟しているのだが、幸いにも他に乗る人がいなくて間に合って、ホームに辿りついたのだが、悪いことは二重に起こるもので、駅のロッカーに預けてあったバッグを忘れているのに気付いた。
   幸いも重なるもので、駅が極めてコンパクトなので、バッグの回収も数分で済み、丁度到着した特急に滑り込んだ。
   この鳥取と新山口を結ぶ特急だが、たったの2両連結で、空席が目立ち、地方の過疎化と沈滞を感じながら、お粗末な日本の観光行政を思った。
   ヨーロッパの田舎を随分歩いてきたが、面白かったし楽しかった。

   この日は、安野光雅美術館、日本遺産センター、森鴎外と西周の旧宅くらいを訪れて時間を過ごし、綺麗な本町通りと殿町通りを歩いただけだが、新緑萌ゆる美しい津和野を味わうことが出来て、満足であった。

   清流の津和野川に沿って、美しい山々に囲まれた津和野の町は、本当に素晴らしく、喧騒からかけ離れた日本の懐かしい故郷を感じさせて、素晴らしい散策のひと時を楽しませてくれた。
   
   
   
   

   津和野の魅力的な街並みは、駅から2~3分南に歩いたところにある郵便局の角から、1.5キロくらいの大橋までの一直線の街路で、手前は酒屋や老舗のある商業地区の本町通りで、カトリック教会のところで空間が広がり、左手には奇麗な緋鯉など錦鯉が泳ぐ掘割が道路に沿って繋がっており、石畳となまこ壁が続く城下町風と武家屋敷風がミックスしたシックな銀杏並木が続く殿町通りであり、流石に旅情を誘う奇麗な遊歩道である。
   今回は、雨の所為か、掘割の水が濁っていて、緋鯉もビアダルポルカのように大きく肥えていて、やや、風情に欠けていたが、これもご愛嬌かも知れない。
   やはり、萌出ずる新緑の季節で、掘割の菖蒲や並木のイチョウが緑に輝き、背景の山々に映えて清々しい。
   人通りが殆どなく、全く静かで、津和野の美しさを独り占めしている雰囲気であった。
   
   
   
   

   水上勉が、金沢旅情か何かの本で、ふっと前を横切って、幻のように消えて行った美しい女性のことを書いていたのを思い出した。
   こんなにムードたっぷりの美しい空間に、空想ながら、マドンナを佇ませて思いを馳せるのも、旅の楽しみであろうか。
   和服の良く似合う女(ヒト)で、竹久夢二のイメージとは少し違って知的な香りを漂わせた優雅な感じの女が、津和野には、良く似合う。

   いや、この街で、ヨーロッパの素晴らしい詩情豊かな絵を描き続けて感動を与え続けてくれている安野光雅画伯が誕生したのであるから、モダンでシックなスラックスやパンタロン姿の颯爽とした女が、現れても、絵になるかも知れない。

   津和野は、ミシュラン・グリーン・ガイドでは、一つ星だが、残念ながら、半ページの記述しかない。
   特急を下りた一組のハイクスタイルの若い白人のカップルが、街に消えて行った。
コメント
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