地味鉄庵

鉄道趣味の果てしなく深い森の中にひっそりと (?) 佇む庵のようなブログです。

青蔵線ラサ駅にて (1) アメロコNJ2型

2006-10-11 21:36:47 | 中国の鉄道


 今年の7月1日、ゴルムド~ラサ間が正式に全通して「試運営」が始まった、世界鉄道最高地点を走る中華人民共和国・青蔵線(青海チベット鉄道)。遼寧省を訪問したのち、チベット自治区を訪問する機会を得ましたので、その際に見物してみた区都ラサ駅の発着シーンをご紹介してみましょう。
 ラサ駅は、ラサの市街地に鉄道用地を確保するスペースがないため、ラサ河の対岸、しかも市街の中心からは非常に離れたところに建設されており、そこまで行くにはタクシーまたは本数が少なくスシ詰めの路線バスによる他はありません。飛行機でラサに到着した翌朝、まだ高山病が全然治まっていない状態でいきなり早起きしてハードな撮影行に出かけたため、駅に着く頃には頭は朦朧 (苦笑)。それでも「見てくれだけ巨大で作りは安普請」な駅舎を横目に見ながら駅構内の外れへと向かい、複雑に広がるポイント群や、ホームに停車中の酸素供給装置付き最新鋭客車を目にしますと、俄然体内の「鉄」パワーがみなぎってくるから不思議です (笑)。
 そして……駅の西側にある機務段(機関区)の中から、アメリカ製の青蔵線専用(高地対応)最新鋭DL・NJ2型がゆっくりと出てきました。陰影の深い乾いた風景との組み合わせを見ていると「あぁ……ついに本当にこういう鉄道が開通してしまったのか……」という気分に襲われました。



 そしてこちらは、成都or重慶行きの列車がラサ駅を発車する光景……延々と続く無人地帯における故障に備えての三重連が、猛烈な煙を吐き出しながらゆっくりと動き出しました。それは、単純に「鉄」的視点だけから見れば、如何にも雄壮で感動的なものではありますが……。

 しかし、この鉄道ほど「趣味的には最高に興味深いけれども、政治的・社会的には問題がありすぎる鉄道」という存在も古今あまりないのではないかと思います。
 この鉄道はいま現在のところ、老体と心臓病を顧みない香港の老人が乗車中に高山病で死亡したことと、何故か食堂車だけが脱線した事故が発生したことを除けば、ほどほど順調に営業運転しているようです。しかし、技術力の低い出稼ぎ農民を酷使しただけの安普請な路盤や橋脚が早くも永久凍土の洗礼に遭って危機的な状況にあるとも言われますし、何と言っても鉄道に乗って突然降って湧いた大量の観光客がチベットの寺院などの観光地でお世辞にも「礼儀がある」とは言えない行動を繰り返すなどなど……様々な問題が噴出しているようです。
 いっぽう、この鉄道が今後さらにインドとの国境線に沿って延長されれば、アジア内陸部における軍事・商業地図は間違いなく大きく塗り変わるとも言われております。
 というわけで、何でも世界一であることが大好きな中国の人々はこの鉄道の完成に狂喜乱舞しているようですが、その先にあるものが頭の中でチラチラしてしまった私は、複雑な気分で「世界の屋根列車」の発車を見送ったのでした……。