小金沢ライブラリー

ミステリ感想以外はサイトへ移行しました

ミステリ感想-『殉教カテリナ車輪』飛鳥部勝則

2010年03月22日 | ミステリ感想
~あらすじ~
憑かれたように描き続け、やがて自殺を遂げた画家・東条寺桂。彼が遺した二枚の絵、“殉教”“車輪”に込められた主題とは?
彼に興味を持って調べ始めた学芸員・矢部直樹の前に現れたのは、20年前に起きた不可解な二重密室殺人の謎だった。
第九回鮎川哲也賞受賞作。


~感想~
図像学という、平たく言えば絵画の絵解きをするというマイナーな学問を軸に据え、作中に登場する絵画を著者自ら描いたという意欲作である。
意欲だけにとどまらず、完全無欠の二重密室に、作中作という形式で当然期待されるトリックもぶち込み、いかにもデビュー作らしい、盛りだくさんの内容になっている。
それだけに序盤の濃いミステリ談義、終盤の軽めに流れていく展開が、重厚な雰囲気になりえた作品の魅力を、逆に若干弱めてしまった感がしてならない。
それは有栖川有栖による解説にも共通で、途中までは名文だったのに、中途で自分の文に酔い始めてから酷い有様になっている。
と、脱線はともかくとして、そうした重箱の隅をつつく瑕疵ともいえない瑕疵を差し引いたとしても、実に鮎川賞にふさわしい労作だと言えるだろう。


10.3.12
評価:★★★☆ 7
コメント