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ミステリ感想-『重力ピエロ』伊坂幸太郎

2014年10月14日 | ミステリ感想
~あらすじ~
兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。
家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。
連続放火と、火事を予見するような謎の落書き。謎解きに乗り出した家族が直面する真実とは。
03年このミス3位、文春4位、日本推理作家協会賞・候補


~感想~
よく勘違いされるがこれは「書評」ではなくただの「感想」なので今回は特に個人的な話をするが、大傑作「ゴールデンスランバー」をオールタイム・ベスト10に選んでもなお、人生で読むのを途中で挫折したたった2冊の本の片割れである「陽気なギャングが地球を回す」で受けたトラウマが強烈で(※もう一冊はアンソロジーの21世紀本格)、「面白い本を教えてくれ」系スレ等でどこからともなく沸いてくる信者の糞ウザさとあいまってどうしても伊坂幸太郎は敬遠しがちだった。
本作も「スタイリッシュ・ファミリー小説」などと恐ろしい冠を付けられており、読むのにだいぶ二の足を踏んだ。スタイリッシュ◯◯なんて他に「デビル・メイ・クライ」か「彼岸島」しか知らないぞ。

だが読み始めるや恐怖はたちまち氷解した。あの頃は怖気しか感じなかった文体が軽妙に響き、実に心地よい。膨大な参考文献から引用した名言や小気味よい比喩の数々は的確で、物語に関係あるようで絶妙にさほど関係ない過去の逸話がいちいち面白く、とにかく読み進めるのが楽しくてしかたない。これは信者が生まれるのも納得だ。
しかし後半になるにつれ、静かに進行していた物語の裏が明かされていくにつれ、どんどん期待が尻すぼみしていく。なんせ全てが予定調和なのだ。どこまで隠す気があるのか知らないが、なにもかも全く隠し切れておらず、伏線も「ゴールデンスランバー」のように連鎖爆発するところまでは行かなかった。結末もそれでいいのかそれでと苦言を呈する他ないあんまりな着地で、単純にまだデビューから4作目のこの時点の作者にはそこまでの力量がなかっただけの話だろうか。

ともあれ伊坂トラウマはほとんど払拭できた。「陽気なギャングが地球を回す」に再挑戦する勇気はまだないが、伊坂作品をもう少し読んでみようと思う。


14.10.13
評価:★★★ 6
コメント (2)