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ミステリ感想-『ダンデライオン』河合莞爾

2014年10月29日 | ミステリ感想
~あらすじ~
鏑木特捜班シリーズ第三弾。
密室のサイロで発見された16年前の永久死体。被害者はまるで空を飛んでいるさなかに刺殺されたような姿だった。
彼女は「空飛ぶ娘」の民話とタンポポを愛し、母親に「空を飛べる」と言っていたという。
そして捜査のさなか、やはり密室状況のホテル屋上から焼死体を残し、空を飛んだように犯人が姿を消す。


~感想~
島田荘司ばりの奇想と、驚異的な完成度の作品でおなじみの新鋭。おなじみのと言ってしまえるのがすごいのだが、今回も完成度の高さは抜群。
名前の出る登場人物のほぼ全員が事件に重要な関わりを持つ無駄のなさすぎる構成、すれっからしのミステリマニアなら確実に怪しむ双子の扱いに潜む意表をつくトリック、御大に捧げる空を飛ぶ娘と犯人の奇想(ついでに原発批判)、決して上手くも軽妙でもないが流れるような筆致によるリーダビリティ、デビュー作から引っ張ってきた姫野の過去の秘密、とどめに悲哀をにじませたラストと、もはや職人芸とでも呼びたくなる辣腕ぶりには「まだデビューから四作目」という事実をかえりみて戦慄せざるをえない。

だが前作「ドラゴンフライ」と同じく、あまりに無駄がなさすぎ伏線は仕掛けるそばから丸わかりで、御大リスペクトの物理トリックはヒントというか回答そのものがずばり書かれている親切設計、最後に明かされる真相もあからさますぎる伏線のせいでだいたいの見当が付いてしまうのが玉に瑕。あとほんの少し、真相を覆い隠す技術があれば完全無欠なのだが、そこまで望むのは酷な話だろうか。

ともあれ「真相と展開がわかりやすすぎる」という唯一の欠点にさえ目をつむれば「この世に完璧なものがただ1つだけある。それは河合莞爾の作品だ」とでも言いたくなる驚嘆すべき完成度の高さには、ただただ感心するばかりである。


14.10.27
評価:★★★ 6
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